デビルマンの変身で服が破れたら保険は出る?正義のヒーローを裏切る「故意免責」という現実
デビルマンの変身で服が破れる問題を、FPはどう見るのか
昔から、ずっと気になっていたことがあります。
変身ヒーローって、
服、どうしてるん?
特にデビルマン、不動明。
「デービーールー!」と叫んだ瞬間、
お気に入りらしきTシャツが、容赦なくバリバリに裂ける。
演出としては最高です。
ヒーローもののカタルシス、そのもの。
ただ、年齢を重ねて、
奈良・橿原でFP(ファイナンシャルプランナー)として
保険の相談を受けるようになると、
どうしても別の音が聞こえてきます。
──ビリッ、ではなく。
──チャリン。
そう、「お金が飛ぶ音」です。
あの「A」マークのTシャツ。
毎回買い直していたら、地味に家計を圧迫します。
そこで浮かぶ、どうしようもなく野暮な疑問。
「これ、家財保険で出ぇへんの?」
今回はこの疑問を、
ネタではなく、FP実務の目線で、
約款を机に置いて、本気で考えてみます。
まず大前提:家財保険が守っているもの
最初に、大事な前提を整理します。
家財保険が守っているのは、
「壊れたモノ」そのものではありません。
守っているのは、
「偶然起きた損害」です。
多くの約款には、こう書かれています。
- 急激であること
- 外来であること
- 偶然であること
そして、ほぼ例外なく書いてある一文。
「被保険者の故意による損害は補償しない」
これが、いわゆる故意免責です。
では、デビルマンの変身は、
この「故意」にあたるのか。
デビルマン第1話:これは本当に「事故」だった
まず、記念すべき初回変身。
正直に言って、
これは事故扱いされる余地があります。
理由はシンプルです。
不動明本人は、
- 変身することを知らなかった
- 服が破れることも知らなかった
- 結果を一切予見していなかった
これは保険実務でいう、
「予見不能な突発的事故」にかなり近い。
事故報告書にこう書いたら、
私なら「通るかもしれない」と思います。
「突然身体に異変が起き、
意図せず衣類が破損しました」
初回に限っては、
“わざと”とは言い切れない。
ここまでは、デビルマンにまだ救いがあります。
2回目以降:正義でも、学習した時点でアウト
問題は、2回目です。
一度変身を経験した不動明は、
もう知っています。
- 叫べば強くなる
- そして服は確実に破れる
この状態で、
再び「デービーールー!」と叫ぶ。
ここで、保険の世界では評価が変わります。
「壊れると分かっていて、選択しましたよね?」
これが、保険用語でいう未必の故意です。
壊すつもりはなかった。
でも、壊れる可能性を理解した上で行動した。
この時点で、
事故ではなく、行為になります。
正義のためでも、
世界を救うためでも、
約款は一切、感情を見ません。
それでもFPは考える。「本当に故意と言い切れるか?」
ここで一度、立ち止まります。
FPとして、
「はい、故意です。終わり」
で片付けるのは簡単です。
でも、現場ではそうはいきません。
緊急避難は?
正当防衛は?
自己犠牲は?
もし変身しなければ、
牧村家が壊滅していたとしたら?
この場合、
服を犠牲にして家を守ったとも言えます。
実務では、ここで損害防止費用という考え方が出てきます。
火を消すために服が濡れた。
延焼を防ぐために窓を割った。
これらは「壊した」けれど、
補償対象になることがあります。
デビルマンの服破損を、
ここに当てはめられるか。
正直、かなり苦しい。
でも、FPなら一度は考えるラインです。
しかし現実は冷たい:免責金額という第二の壁
仮に、です。
仮に、奇跡的に、
「事故として認められた」としましょう。
それでも、ほぼ確実にお金は出ません。
理由は、免責金額。
最近の家財保険では、
5,000円〜1万円の自己負担が一般的です。
では、不動明のTシャツ。
新品価格:3,000円
使用済み:時価評価で500円〜1,000円
損害額:1,000円
免責金額:5,000円
1,000 − 5,000 = 支払いゼロ
請求するだけ、
時間と切手代が無駄です。
ここが、
「保険が出る・出ない」以前の、
生活感のある現実です。
さらに致命的:不動明は「居候」である
もう一つ、致命的な問題があります。
不動明は、
牧村家の居候です。
火災保険で守られるのは、通常、
- 契約者本人
- 配偶者
- 同居の親族
居候は、含まれません。
つまり、
牧村家の保険では、
明くんのTシャツは最初から対象外の可能性が高い。
善意で住まわせていることと、
保険で守られることは、
全く別の話です。
比較① ハルク:制御不能なら評価は変わる
ここで、比較対象としてハルク。
ハルクは、
- 変身を自分で選べない
- 止めることができない
- 怒りで勝手に変わる
これは、保険実務では、
心神喪失・不可抗力に近い。
「分かっててやった」とは言い切れない。
同じ服破損でも、
評価は180度変わります。
比較② ケンシロウ:これは議論の余地なし
北斗の拳、ケンシロウ。
秘孔を突けば、
相手も服も爆散する。
これはもう、
- 意図的
- 結果確定
- 破壊が目的
確定的故意です。
家財保険?
論外です。
そして布石:ウルトラマンは次元が違う
最後に、軽く触れておきます。
ウルトラマン。
彼の場合、論点は変わります。
- 個人ではない
- 組織に属している
- 制服=業務用物品
命令なき変身。
正体は秘密。
これはもう、
家財保険ではなく、
労災・公務災害の世界です。
この話は、別記事で徹底的にやります。
まとめ:保険は「行為」を見る
・初回は事故
・学習後は自己責任
・制御不能だけが例外
これが、
デビルマン・ハルク・ケンシロウを貫く、
保険の冷酷な共通ルールです。
正義の味方も、
約款には勝てません。
それが、現実です。
空想おかねシリーズについて
本記事は、漫画・アニメの世界観を題材に、現実の保険・お金・制度をFP視点で読み解く「空想おかねシリーズ」です。
エンタメですが、制度解釈は実務ベースで構成しています。
次回予告:
「ウルトラマンの変身は業務命令か?公務災害と制服破損の闇」
著者:かながわFP相談所(金川)
奈良・橿原で活動する独立FP。
無理な勧誘は行わず、必要な人に必要な話だけを。