「70歳の壁」が揺らぐ?医療費負担見直しと、自助努力としての保険・資産形成|奈良・橿原のFP解説
2025年12月5日付の奈良新聞(紙面)で、70歳以上の医療費窓口負担見直し案が大きく報じられました。記事の元になっているのは、共同通信が12月4日に配信したニュースで、厚生労働省が「高齢者の医療費の自己負担割合を見直すたたき台」を示したという内容です。
ポイントは大きく3つあります。
- 69歳まで3割だった「原則3割負担」の上限を、70歳以上に広げる案
- 1割・2割・3割だけでなく、1.5割・2.5割など中間的な区分を新設する案
- 「現役並み所得」の基準を見直し、3割負担になる高齢者の範囲を広げる案
狙いは、増え続ける医療費を支えつつ、現役世代の保険料負担を軽くすることです。つまり、「高齢になれば自動的に医療費が安くなる」という前提は、少しずつ小さくなっていく流れにあると言えます。
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なぜ今、「70歳の壁」が見直されようとしているのか
日本の公的医療保険は、「皆で支え合う」仕組みです。ただ、仕組みとして美しくても、数字が合わなくなれば見直しが必要になります。今回の議論の背景には、次のような現実があります。
- 高齢者人口は増え続け、医療費の多くを高齢者が使っている
- 一方で、保険料を負担する現役世代の人口は減少
- 結果として、医療費全体は右肩上がりで増え続けている
厚労省としては、「年齢だけ」で大きく優遇する構造から、所得(支払い能力)に応じた負担に少しずつシフトしたいという意図があります。これは、与党内でも「年齢によらない公平な応能負担」を掲げて合意している流れと一致しています。
今回の案はまだ「例示」にすぎず、2026年度中に制度設計を詰めていくとされています。ただ、方向性としては、
- 年齢による一律の優遇は徐々に縮小していく
- 「払える人」には年齢に関わらず、相応の負担を求める
という流れは、今後も続くと考えてよいでしょう。
今の医療費負担はどうなっている?現行制度の整理
まず、現在の自己負担割合をざっくり整理します。
| 年齢 | 原則の自己負担割合 | 所得などによる例外 |
|---|---|---|
| 0〜69歳 | 3割 | 特になし |
| 70〜74歳 | 2割 | 「現役並み所得」は3割 |
| 75歳以上 | 1割 | 一定所得以上は2〜3割 |
実は、すでに「70歳以上=必ず安い」わけではないことが分かります。70歳以上でも、所得が一定以上であれば3割負担となる方はいますし、75歳以上でも1割ではなく2割負担になるケースがあります。
今回の見直し案では、例えば次のような形が検討されています(具体的な線引きはこれからです)。
- 70〜74歳でも、所得によっては3割負担が広がる
- 75歳以上であっても、1.5割・2割・2.5割など細分化される
- 「現役並み所得」の基準を見直し、対象者を拡大する
つまり、「70歳になったら医療費がぐっと安くなる」というかつての感覚は、今後ますます当てはまらなくなる可能性があります。
高額療養費制度があっても油断できない理由
ここでよく出てくるのが、高額療養費制度です。「医療費が高額になっても、自己負担には上限があるから大丈夫」と説明されることも多い制度ですね。
たしかに、非常に優れたセーフティネットです。ただし、FPとして実務や自分の経験から見ると、次のような点には注意が必要です。
- 入院や手術が複数月にまたがると、それぞれの月で自己負担が発生する
- 高額療養費でカバーされるのは「保険診療分」だけで、差額ベッド代や食事代、交通費などは対象外
- 現役時代の収入が高いほど、自己負担の上限額も高く設定される
「高額療養費があるから大丈夫」という前提だけで、医療費の備えをすべて公的制度に委ねるのは、やや楽観的すぎると感じます。
奈良・橿原で暮らす共働き世帯にとってのインパクト
奈良・橿原エリアで子育てと仕事を両立していると、家計の中にはすでに多くの固定費が並んでいるはずです。
- 住宅ローンや家賃
- 保育料・学費・習い事などの教育費
- 車の維持費(奈良では必須というご家庭も多いはず)
- 食費・光熱費の上昇
ここに、将来の医療費負担増が上乗せされる可能性があるとなると、「老後になったらなんとかなるだろう」という感覚では危うい場面も出てきます。
特に、世帯主・配偶者のどちらかが長期入院や手術となった場合、
- 医療費そのものの負担
- 仕事を休むことによる収入減
- 家事・育児の外注コスト
が同時に発生するため、家計へのインパクトは思っている以上に大きいのが実感です。
FP自身の手術経験から見えた「10万円の重み」
私自身、最近右肩の関節唇損傷の手術を受けました。入院・手術・リハビリを含め、自己負担額はおおよそ10万円。もちろん公的保険が適用された上での金額です。
さらに、過去には椎間板ヘルニアでの入院・手術も経験しています。仕事を一時的に止めざるを得ず、「医療費」と「収入減」が同時に襲ってきた期間でした。
- 腱板断裂の疑い→手術で判明した「関節唇損傷」。奈良のFPが語る医療費と保険のリアル
- 椎間板ヘルニアで入院&手術|実際にかかった費用と保険給付【FP体験談】
- 【FPが解説】入院日額はどれくらい必要?平均入院日数の“二極化”と医療保険の最適設計
「10万円くらいなら何とかなる」と感じる方もいるかもしれません。ただ、それが2回・3回と重なったり、収入減と同時に来たりすると、心理的な負担も含めてかなりのダメージになります。
医療費リスクにどう備える?税制優遇の整理
ここで一度、よく聞かれる質問に答えておきます。
- Q. 金融商品で所得控除ができるのは保険だけですか?
厳密には、そうとは言い切れません。例えば、
- iDeCo(個人型確定拠出年金)…掛金全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象(年金制度の一種)
- 生命保険・医療保険・個人年金保険…「生命保険料控除」「個人年金保険料控除」の対象(上限あり)
といった形で、制度としての年金(iDeCo)と、民間の保険商品の両方に所得控除の仕組みがあります。
一方で、新NISAは「運用益・配当が非課税になる制度」であり、掛金そのものが所得控除になるわけではありません。つまり、
- 「増やす」ための税制優遇 → 新NISA(運用益非課税)、iDeCo(掛金所得控除+運用益非課税)
- 「守る」ための税制優遇 → 生命保険料控除・医療費控除 など
という役割分担になっています。
投資 vs 保険ではなく、「攻め」と「守り」の役割分担
よくある議論として、
- 「医療保険なんていらない。新NISAで貯めておけばいい」
- 「投資は怖いから、保険だけかけておけば安心」
という“どちらか一方”のスタンスがあります。しかしFPとしては、これはどちらも極端だと考えています。
| 役割 | 主な手段 | イメージ |
|---|---|---|
| 攻め(資産形成) | 新NISA・iDeCo・特定口座での投資 | 老後資金・教育資金を長期で増やす |
| 守り(リスクヘッジ) | 医療保険・がん保険・就業不能保険・生命保険 | 病気・ケガ・死亡・働けないリスクから家計を守る |
「攻め」と「守り」は対立するものではなく、補い合うものです。守りが薄い状態で攻めだけを強くすると、万が一のときに資産形成の土台ごと崩れるリスクがあります。一方で、守りばかりに偏りすぎても、将来の資金準備が追いつきません。
公助・共助・自助のバランスをどう考えるか
今回の70歳以上医療費見直しの議論は、ある意味で国からのメッセージだと感じています。
- 公助(国・自治体の制度) … 財政的に優遇を広げ続けるのは難しい
- 共助(保険・共済など) … リスクを皆で分け合う仕組み
- 自助(貯蓄・投資・働き方) … 自分の将来を自分で守る努力
これまでは「公助」に依存できる部分が大きかった分、「共助」「自助」の優先度を低く見積もってきた面もあるかもしれません。しかし、
- 高齢者人口の増加
- 現役世代の減少
- 医療の高度化による一人あたり医療費の増加
といった流れの中では、公助だけに頼るのは現実的ではない、というのが率直な感想です。
【FPとしての結論】必要な保障は「健康な今」にしか買えない
医療保険やがん保険、就業不能保険などは、基本的に「健康なうち」にしか加入できません。
- 年齢が上がれば保険料は確実に高くなる
- 既往症が増えると、加入を断られたり、特定部位が「不担保」になることもある
- 公的制度の優遇は、今後も縮小・見直しが続くと考えられる
だからこそ、「高齢になってからゆっくり考えよう」ではなく、まだ働いていて、ある程度自由に設計できる今のうちに、攻めと守りのバランスを整えておくことが重要です。
奈良・橿原の共働き子育て世代が今やるべき3ステップ
最後に、具体的な行動のステップを3つだけ挙げておきます。
- いま加入している保険を全部テーブルに並べる
医療・がん・死亡・学資・積立…など、証券を一度すべて出してみるところから始めます。 - 「何のための保険か」を1枚の紙に書き出す
「入院の自己負担をカバーするのか」「遺族の生活費なのか」「老後資金なのか」を整理すると、過不足が見えてきます。 - 第三者の目線でチェックしてもらう
保険会社や特定の商品に偏らないFPに見てもらうことで、「公助・共助・自助」のバランスが妥当かどうかを確認できます。
今回の「70歳の壁」見直しのニュースは、不安をあおるためのものではなく、自分の備えを見直すきっかけとして捉えていただければと思います。
将来、奈良・橿原で迎える老後の医療費負担を、できるだけコントロールできるように。今のうちに、自分と家族を守る準備を進めていきましょう。
将来に備えるなら「今」が一番若い日です。
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かながわFP相談所(奈良県橿原市)/ファイナンシャルプランナー 金川 崇
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