【FP検証】バイオハザードの洋館破壊、保険は下りる?「緊急避難」と「賠償責任」の境界線をガチ解説
深夜の洋館。扉は蹴破られ、窓は割られ、高そうなアンティーク家具は吹き飛び、時には爆発まで起こる。
サバイバルホラーの金字塔『バイオハザード』。この破壊の嵐の中心にいたのが、S.T.A.R.S. のクリスとジル(+時々バリー)です。
ゲームとしてプレイしている時は爽快ですが、私たちFP(ファイナンシャルプランナー)が「損害保険のプロ」としてこの光景を見ると、ヒヤッとする疑問が浮かびます。
「これ、現実なら総額いくらの損害になる?」
「個人賠償責任保険でカバーできるのか?」
「そもそも、彼らに賠償責任はあるのか?」
今回は『空想おかねシリーズ』特別編として、バイオハザードの洋館事件を題材に、保険約款と法律の境界線を徹底的に検証します。
note版では語りきれなかった「保険支払いのリアルな要件」まで踏み込んで解説します。
※本記事はフィクション作品を題材にした一般的な解説です。現実の保険金支払いは個別の事故状況や約款に基づきます。
「うちの家計だと、もしもの事故や賠償リスクはどれくらい?」と感じた方は、LINEでお気軽にご相談ください。
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1. 洋館の被害総額をガチで見積もる
まずは現状把握です。ゲーム画面から確認できる損害を、現実の資産価値に換算してみましょう。
破壊された主な資産
- 建具(ドア・窓):洋館特有の重厚な木製ドアやステンドグラス。特注品のため1枚数十万〜数百万クラス。
- 内装(壁・床):銃撃痕、爆発による焦げ跡、クリーチャーの体液による汚損。
- 家財(家具・調度品):1960年代建設の洋館にあるアンティーク家具。時価評価額は青天井。
- 設備(研究施設):地下研究所の精密機器。これだけで億単位。
これらを積み上げると、損害総額はざっくり1〜4億円規模になると推測されます。
奈良県内で立派な戸建てが何軒も建つ金額です。
2. 個人賠償責任保険は「1円も下りない」という現実
ここからが本題です。
もしクリスやジルが、現代の一般的な「個人賠償責任保険(個賠)」に入っていたとしましょう。この数億円の損害に対し、保険金は下りるのでしょうか?
結論から言うと、保険金は1円も下りません。
なぜ「下りない」と言い切れるのか。そこには保険の鉄則である「法律上の損害賠償責任」というキーワードが関わってきます。
理由①:「法律上の賠償責任」が発生していない
個人賠償責任保険の約款には、必ずこう書かれています。
『被保険者が、法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害を補償します』
逆に言えば、「法律上、あなたには賠償しなくていいですよ」となれば、保険会社も払わないのです。
今回のケースでは、以下の理由で「賠償責任自体」が消滅すると考えられます。
- 正当防衛・緊急避難(刑法第37条ほか)
ゾンビに襲われ、命を守るためにやむを得ず扉を壊したり発砲したりする行為は、「緊急避難」として違法性が阻却(キャンセル)されます。違法性がなければ不法行為(民法第709条)は成立せず、賠償義務も発生しません。 - 権利の濫用(民法第1条)
被害者であるはずの洋館所有者(アンブレラ社)は、違法な生物兵器開発を行っていました。公序良俗に反する目的で使われていた施設について賠償を求めることは、「権利の濫用」として認められない可能性が高いです。
「クリスたちは悪くない(賠償義務なし)」=「保険会社も払う必要なし」。
これが、保険実務のドライな結論です。
理由②:職務中の事故は「個人賠償」の対象外
もう一つの決定的な理由が「公務中・業務中」であることです。
個人賠償責任保険は、あくまで「日常生活」の事故をカバーするものです。
クリスたちはS.T.A.R.S.(警察特殊部隊)としての任務中ですので、そもそも個人の保険の対象外となります。
仮に賠償責任が発生するとしても、それはクリス個人ではなく、雇用主である「ラクーン市」が負うことになります(国家賠償法)。
3. じゃあ誰が損害を被るのか?
「クリスたちに賠償責任がない」ということは、「壊された側(洋館の持ち主)が、自分で直さないといけない」ということです。
ここで登場するのが、相手側の「火災保険」です。
火災保険で直せるか?
通常、建物の火災保険には「破損・汚損」などの補償が付いていることが多いですが、ここにも壁があります。
- 所有者の故意・重過失?:ゾンビを徘徊させたのは所有者(アンブレラ)自身の管理不備(というか故意)です。自ら招いた事故として、免責(支払い不可)になるでしょう。
- 免責事由「戦争・変乱・暴動」:バイオハザードのような大規模なパニックや戦闘状態は、保険約款上の「変乱」や「暴動」に該当し、すべての保険支払いがストップする可能性があります。
つまり、洋館の修理代数億円は、全額アンブレラ社の自腹(特別損失)になるわけです。
企業のコンプライアンス違反は、保険の視点でも命取りだということがよく分かります。
4. 実は一番ヤバい「ハーブ調合」の法的リスク
器物損壊の話は「緊急避難」で片付きましたが、FPとしてどうしても見過ごせないのが「ハーブの調合」です。
ゲーム内では当たり前のように行われていますが、現実の法制度に照らすと、器物損壊よりもこちらの方が遥かにリスクが高い行為です。
- 医薬品医療機器等法(薬機法)違反:無許可で医薬品(効能効果を持つ物)を製造・調合する行為。
- 薬剤師法違反:資格を持たずに調剤を行う行為。
「混ぜると回復する」という効能を期待して調合した時点で、それは法的には「医薬品の製造」です。
もちろん、これも現場では「緊急避難」で罪には問われないでしょうが、もし平時に同じことをやれば即逮捕レベルです。
【FPの視点】現実の「民間療法」リスク
これを現実に置き換えると、「自己判断の民間療法や個人輸入薬」のリスクに通じます。
「病院に行かずに自分で治す」という判断が、結果的に病状を悪化させ、長期入院や就労不能(収入減)を招くケースは、FP相談の現場でも稀に見かけます。
適切な医療を受けることは、健康だけでなく「家計のリスク管理」の基本でもあります。
まとめ:保険は「万能」ではない
バイオハザードの事例から分かる教訓は、「どんなに派手な損害でも、賠償責任(法律上の義務)がなければ保険は動かない」ということです。
- 洋館の数億円の損害は、緊急避難のため賠償義務なし。
- 賠償義務がないので、個人賠償責任保険も使えない。
- 結局、所有者(アンブレラ)が全損害を被るしかない。
現実世界でも、「相手が悪いのに、相手に賠償能力がない」「法律上、責任を問えない」というケースは存在します。
そんな時に自分を守ってくれるのは、相手からの賠償金ではなく、「自分のための保険(火災保険、人身傷害保険など)」や「手元の貯蓄」です。
「自分の入っている保険は、こういう時どうなるの?」「賠償リスクと自分の補償、バランスは取れている?」
少しでも気になった方は、平和な今のうちに確認しておきましょう。
次回予告
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※『空想おかねシリーズ』は、フィクション作品を題材に「制度・お金・リスク」を楽しく学ぶためのコラムです。現実のお金のご相談は、個別の状況に応じて丁寧にお受けしています。