ハウスメーカーが倒産したらどうなる?家が建たないのに住宅ローンだけ残るリスクと「住宅完成保証制度」
注文住宅の契約前に。「もし工事中にメーカーが倒産したら?」を想像したことはありますか?
この記事を読んでいるあなたが、これから注文住宅を建てようとしているなら、少し怖い話をします。
念願のマイホームを契約して、着工金を払った直後にハウスメーカーが倒産したら、どうなると思いますか?
「家が建たないんだから、お金は返ってくるだろう」
「銀行が事情を汲んで、ローンを止めてくれるだろう」
もしそう思っているなら、かなり危険です。
現実はもっと残酷で、「家は建たない(手に入らない)のに、数千万円の住宅ローンやつなぎ融資の返済だけが残る」という事態になりかねません。
先日、テレビのニュースでまさにこのトラブルを目にしました。被害に遭われた方の無念さを思うと、FPとして、いや一人の人間として本当に胸が痛みました。
確率としては低い話かもしれません。でも、家づくりで「間取り」や「キッチン」に悩むのと同じくらい、いやそれ以上に、この「最悪のシナリオ」について知っておいてほしいのです。
※なお、本記事は「これから契約する方」への注意喚起です。もし既にトラブルに巻き込まれている当事者の方は、FPではなく直ちに弁護士会や法テラスなどの法律の専門家へご相談ください。
ハウスメーカーが倒産したら、何が起きるのか
まず、「ハウスメーカーや工務店が倒産したら何が起きるか」をざっくり整理してみます。
- 工事がストップし、現場の職人さんや下請け業者が引き上げる
- 契約時・着工時・上棟時などに支払ったお金(頭金・中間金など)は、原則として簡単には戻ってこない
- 建物が完成していないので、新しい業者に引き継ぐには「追加費用」がかかることが多い
- 住宅ローンやつなぎ融資は、「あなた(施主)」と金融機関の契約なので、原則として返済義務は消えない
例えば、3,500万円の注文住宅で、すでに土地代と着工金・中間金として1,000万円前後を支払ったタイミングで倒産したとします。建物は途中の状態で止まり、支払ったお金は全額は戻らない可能性が高い。一方で、土地部分のローンやつなぎ融資の返済だけは淡々と続く……。
これが、ニュースでときどき目にする「家は未完成なのに、ローンだけが残る」状態です。
家が建たなくても、銀行は「金返せ」と言う
ここが一番、感情的に納得しにくい部分だと思います。
住宅ローンというのは、銀行が「家が完成すること」を条件にお金を貸しているわけではありません。極端な言い方をすれば、「あなた(施主)の信用」と「契約書」に対してお金を貸しています。
だから、施工会社が倒産しようが、社長が逃げようが、銀行からすれば「お金はお貸ししましたよね? では契約通り返済してください」となります。これが金融の冷徹なルールです。
特に注意が必要なのは、土地代や着工金・中間金の支払いに使われる「つなぎ融資」です。建物が完成して住宅ローンの本契約が実行される前でも、つなぎ融資は返済を続けなければなりません。倒産したからといって、勝手にチャラにはならないのです。
「商品(家)を受け取っていないのに、代金だけ払い続ける」。
想像するだけでゾッとしますが、これが倒産トラブルの現実です。
倒産劇は「ババ抜き」。最後にババを引かされるのは施主
言葉は悪いですが、倒産劇というのはある種の「ババ抜き」だと感じます。
会社が危なくなってきた時、銀行や建材屋といった「プロ」たちは、いち早く危険を察知して取引を縮小したり、資金を引き上げたりして逃げます。彼らはババを捨てることができるんです。
でも、一般の施主には、そんな情報はまず入ってきません。
決算書を読み込むわけでもなく、経営者の素行を調査するわけでもない。営業マンから見える範囲だけで判断するしかありません。
プロたちが静かに逃げ出した後、何も知らない施主だけが、営業マンの「今ならキャンペーンでお得です」「この区画は最後の1区画です」という言葉を信じて契約し、虎の子の頭金を振り込んでしまう。
結果として、一番情報の少ない「弱者」である施主が、最後の最後にババを引かされる構図になっています。これが本当に理不尽で、悔しいと感じます。
壁紙を選ぶ前に、「この会社は引き渡しまで持つか?」を考えてほしい
家を建てる時、多くの人は土地の利便性や、耐震性能、おしゃれな内装には徹底的にこだわります。もちろん、それ自体はとても大事なことです。
また、地元の工務店さんの多くは、真面目に経営され、地域のために良い仕事をされています。すべての会社を疑えというわけではありません。
ただ、FPとして住宅の相談を受けていると、「その会社が、引き渡しの日まで存続しているか?」という視点が、あまりにも抜け落ちていると感じることがあります。
どんなに素晴らしい図面でも、どんなに高性能な断熱材でも、会社が潰れてしまえばただの「紙切れ」と「部材」です。
大手だから安心、地元で有名だから大丈夫、という思い込みは一度捨てましょう。「この会社と、何千万円もの契約を結んで良いか?」という目線で、冷静に見てほしいのです。
「住宅完成保証制度」という命綱
では、どうすればいいのか。
「財務諸表を読め」とまでは言いません。一つだけ、契約前に必ず確認してほしいことがあります。
それは、「住宅完成保証制度」に加入しているか(加入できるか)という点です。
住宅完成保証制度とは、工事中に施工会社が倒産してしまった場合に、工事の引き継ぎや、追加費用のサポートが受けられる仕組みです。
もちろん、すべての工務店が加入できるわけではありません。加入には審査が必要なため、この制度を利用できること自体が、その会社の「経営の健全性」を測るひとつの目安になります。
逆に、「うちはそういうの入ってないんです」「うちは大丈夫ですよ、信用してください」と言葉を濁すだけで、合理的な説明がない会社なら、一度立ち止まって考えたほうがいいかもしれません。
浮足立っている時こそ、冷静な第三者を
夢のマイホーム計画中は、どうしても頭の中が「希望」でいっぱいになります。それ自体は素晴らしいことですが、大きな契約には必ず「落とし穴」があります。
私は弁護士ではないので、契約書の法的チェックやトラブル解決はできません。
倒産そのものを防ぐこともできません。
しかし、「その支払いスケジュールで、万が一の時に家計が破綻しないか?」「リスクに備えるための手元資金(バッファ)は確保できているか?」という、お金の安全圏を計算することはFPの仕事です。
奈良・橿原周辺でこれから家づくりを考えている方、「この資金計画で本当に大丈夫?」と不安になっている方は、ひとりで抱え込まず、早めに専門家に相談してみてください。
※本記事は、2025年12月時点の情報をもとに一般的なポイントをまとめたものです。個別の事案についての判断や対応は、必ず専門家にご確認ください。