都立呪術高専で生徒が死んだら共済金は2800万円しか出ないのか。五条悟の公務災害認定と命の値段の格差。
東京都立という看板が突きつけるシビアな法的身分
呪術廻戦という作品をマネーリテラシーの視点で読み解くとき、最初に直面するのは「命にいくらの値段がつくのか」という、あまりに現実的な問題です。物語の舞台となる呪術高専は、法的には東京都が設置する公立学校。つまり、そこで学ぶ虎杖悠仁たちは公立高校の生徒であり、教鞭を執る五条悟は東京都に雇用された地方公務員であるという事実です。
この設定を単なるフレーバーとして聞き流してはいけません。呪霊との戦いという命懸けの現場において、彼らを保護するセーフティネットが何であるかを決定づけるからです。もし彼らが任務中に傷つき、あるいは帰らぬ人となったとき、日本の公的制度は彼らをどう守るのか。そこには、特級呪術師であっても逃れられない、事務的で冷徹な現実が横たわっています。
生徒の命は3000万円。日本スポーツ振興センターの壁
公立学校の生徒が、学校の管理下で事故に遭った場合に適用されるのが、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)による災害共済給付制度です。これは部活動中の事故や授業中の怪我を幅広くカバーする、日本の学校におけるセーフティネットの要です。
しかし、その給付額には限界があります。学校管理下での死亡時における死亡見舞金は、最新の基準で3,000万円です。また、後遺症が残った場合の障害見舞金は、程度に応じて最高4,000万円。特級呪霊を相手に日本を救うような戦いをしたとしても、制度上は部活動中の事故死として処理される可能性が極めて高いのです。
若くして亡くなる生徒が、本来なら社会に出て何十年も働いて得られたはずの収入、いわゆる逸失利益を考えれば、この額はあまりに安すぎると言わざるを得ません。
共済給付の主な内訳(2026年現在の目安)
- 医療費。自己負担分(3割)に1割のお見舞金を加えた、実質4割給付。
- 死亡見舞金。3,000万円(※突然死や通学中は1,500万円)。
- 障害見舞金。程度により1級から14級まで。最高4,000万円。
任務の報酬は給与か。労働者性の認定が運命を分ける
ここで大きな論点となるのが、作中で描写される等級に応じた報酬の存在です。もし、学生が教育の一環を超えて、明確に対価を得て任務を遂行しているならば、彼らは生徒ではなく労働基準法上の労働者とみなされる可能性があります。
もし労働者としての実態、つまり雇用契約が存在すると認定されれば、学校の共済ではなく労働者災害補償保険、いわゆる労災の対象になります。労災が適用されるメリットは絶大です。亡くなった方の給与額に基づいた遺族補償年金が支払われるほか、葬祭料なども支給されます。何より、JSCの一時金制度とは異なり、生活を長期にわたって支える仕組みとなっています。呪術高専の生徒たちは、術式の訓練と同じくらい、自分たちが労働者としてカウントされているかを事務方に確認すべきなのです。
最強の公務員。五条悟に適用される公務災害と身分保障
一方、教師である五条悟や、補助監督の伊地知潔高はどうでしょうか。彼らは東京都立学校に勤務する教職員、すなわち地方公務員です。彼らが職務中に怪我をしたり亡くなったりした場合は、地方公務員災害補償法に基づき、公務災害として認定されます。
五条悟には、警察官や消防士と同様に、危険な職務に対する特殊勤務手当がついていると推測されます。また、彼が封印され長期にわたって戦線離脱した際も、公務員としての身分保障は強力です。病気休暇や休職制度により、給与の一定割合が長期間にわたって保障されます。ただし、渋谷事変のような大混乱で行方不明となった期間を、当局が職務専念義務違反とみなすか、それとも公務中の不慮の事態とみなすか。そこには事務方の凄まじい書類仕事が発生しているはずです。
結論。呪術高専の格差から学ぶ、私たちの現実的な備え
これは呪術廻戦というファンタジーの世界の話ですが、そこで使われている制度自体は、私たちの現実と一切変わりません。
自分の子供が部活動で大怪我をしたとき。あるいは、学生アルバイトとして働いている最中に事故に遭ったとき。学校の共済でカバーされるのか、それとも勤務先の労災が適用されるのか。この境界線を知っているかどうかが、家族を守る大きな力になります。
呪術師たちが領域展開で自らのルールを押し通すように、私たちも公的制度というルールの領域を正しく理解しておく必要があります。公的な補償の限界を知り、足りない部分を民間の保険で補う。これこそが、特級呪霊よりも予測不可能な人生のリスクに対する、最も有効な防御術なのです。
制度を知っているかどうかで、守れる家族の範囲は大きく変わります。私は日々の相談現場で、その差を何度も見てきました。