血液のがんは、出口の見えない治療費との戦いだった|高額療養費・がん保険の現実をFPが解説

知人が血液のがんになった。

60代の男性だ。健康診断の血液検査で異常を指摘され、精密検査を受けたら告げられた。「血液のがんです」と。

それから今も、治療は続いている。

月40万円の薬、という現実

この方の治療費を聞いたとき、言葉に詰まった。

月40万円の薬で、治療を継続している。

月40万円。年間480万円。

「でも高額療養費があるじゃないか」と思った人は正しい。ただ、そこには続きがある。

高額療養費で、実際いくら払うのか

まず整理する。

高額療養費制度は、1ヶ月の医療費の自己負担が一定額を超えた分を補填してくれる制度だ。処方薬も対象になる。

年収370万〜770万円のいわゆる「一般」区分の場合、1ヶ月の自己負担上限は約80,100円+(総医療費−267,000円)×1%で計算される。

薬価40万円の薬があるとして、3割負担で約12万円の窓口負担が発生したとしよう。この場合、高額療養費の適用後の実際の負担は約8〜9万円になる計算だ。

年間で約100万円。

高額療養費のおかげで大幅に圧縮される。でも、ゼロにはならない。毎月、だ。

収入によって、上限額はこれだけ変わる

高額療養費の自己負担上限額は、年収によって5段階に分かれている。

区分年収の目安月の上限額多数回該当後
約1,160万円以上約252,600円+α140,100円
約770〜1,160万円約167,400円+α93,000円
約370〜770万円約80,100円+α44,400円
約156〜370万円57,600円44,400円
約156万円以下35,400円24,600円

薬価40万円の薬を使い続けるケース(区分ウ)で計算すると、3割負担で約12万円の窓口負担が発生する。高額療養費適用後の実負担は約81,430円。多数回該当が適用されれば44,400円まで下がる。

ただし区分アやイに該当する場合、多数回該当後でも月9〜14万円の負担が続く。収入が高いほど、制度の恩恵が相対的に薄くなる構造だ。

多数回該当という救済制度

同じ人が毎月高額療養費を使い続けると、直近12ヶ月で3回の支給実績がつく。

4回目以降は「多数回該当」として、自己負担の上限がさらに引き下げられる。一般区分なら44,400円/月だ。

この方は毎月使い続けているので、今は多数回該当が適用されている。つまり月々の実質負担は約4万4,000円まで下がっている。

年間53万円ほど。

それでも、毎月だ。出口が見えない。固形がんのように「手術で取り切る」という区切りがない。血液のがんには、そういうものが多い。

白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫——種類によって治療法は異なるが、薬を飲み続けながら寛解を維持していく「長期共存型」の病気であることが多い。最初の入院を乗り越えたあとも、治療費は静かに積み上がっていく。

血液がんといっても、種類によって全然違う

「血液のがん」とひとくくりにされやすいが、実際には病気の性質も治療費の規模もかなり異なる。

悪性リンパ腫
血液がんの中で最も患者数が多い。リンパ節に発生し、化学療法(R-CHOP療法など)が標準的な治療だ。種類によっては完治するケースもあり、治療期間が比較的短く終わることもある。

白血病(急性・慢性)
急性白血病は集中的な入院治療が必要で、治療費が一時的に大きくかかる。慢性骨髄性白血病(CML)は分子標的薬による長期管理が主流で、薬を飲み続ける限り毎月の費用が発生する。

多発性骨髄腫
形質細胞が骨髄内で異常増殖する病気で、50〜60代以降に多い。現在は「治癒」より「長期寛解」を目指す治療が主流で、維持療法として高額な薬を継続するケースが多い。月の薬代が高額になりやすく、毎月高額療養費を使い続ける状況になりやすい。

知人のケースが示すように、「どの種類か」によって数年単位の総治療費は大きく変わる。

2026年8月、制度が変わる

高額療養費制度は2026年8月から見直される。

自己負担の上限額が引き上げられる方向で、特に一般区分以上の収入層への影響が出やすい。毎月使い続けている人は、1回あたりの影響は小さくても積み上がり方が違う。

詳しくはこちらの記事で解説している。
2026年8月の制度改正について詳しく解説している

がん保険は、役に立ったのか

この方もがん保険に入っていた。診断給付金が出た。入院給付金も出た。一定の助けにはなった。

ただ、ここに構造的な穴がある。

診断給付金は、原則1回限りだ。

血液のがんのように治療が何年も続く病気では、最初の給付金が出たあとも治療費は毎月積み重なる。給付金はとっくに使い切っている。

入院給付金も、外来治療には関係ない。

1ヶ月の入院を2回経験した。その分の給付金は出た。でも今は外来で薬を使い続けている。入院型の給付金は、外来・通院の薬代には機能しない。

重要なのは、治療給付金の設計だ。昨今のがん保険は「通院した日数」ではなく「治療を受けた月に定額が出る」治療給付金タイプがメジャーになっている。抗がん剤治療を受けた月であれば、入院中でも外来でも給付される。血液のがんのように長期にわたって薬物治療が続くケースでは、この給付が毎月積み上がる。一方、古い設計のがん保険には治療給付金がついていないものも多い。契約時期によっては、長期治療型の病気に対して機能しない設計になっている可能性がある。こうした「がん保険で給付金が出ない落とし穴」は「がん保険なのに給付金が出ない理由」で詳しく解説している。

古いがん保険は、今の治療に追いついていない

がん保険の設計は、この10年で大きく変わった。

旧設計(〜2010年代前半)
入院した日数・通院した日数に応じて給付金が出る仕組みが主流だった。入院1日につき5,000円、通院1日につき3,000円といった設計で、上限日数(60〜90日など)が設けられていることが多い。外来で抗がん剤を使い続ける現在の治療スタイルには対応しきれていない。

新設計(2010年代後半〜現在)
「治療給付金」として、抗がん剤治療や放射線治療を受けた月に定額が給付される設計が主流になった。入院・通院を問わず、治療を受けている限り毎月給付される。血液がんのように外来で薬を使い続けるケースでは、この治療給付金が毎月積み上がる.月10万円の治療給付金なら、1年で120万円の給付になる計算だ。

契約したのが10年以上前であれば、旧設計の可能性が高い。

一度、自分の保険証券を確認してほしい。

就業不能保険という選択肢

この方は、治療しながら仕事に戻った。それは本当に強いことだと思う。

ただ、全員がそうできるわけではない。

血液のがんは治療過程で免疫が低下しやすく、感染症リスクが高まる。長期休職を余儀なくされるケースも多い。体力的に働けても、主治医から制限がかかることもある。

がん保険の診断給付金は「一時金」だ。一度出ればそれで終わる。

就業不能保険は違う。「毎月」給付金が出る。働けない期間が続く限り、給付が続く設計になっている。

月5万・10万の給付が毎月出るかどうかは、治療期間中の生活の安定に直結する。

血液のがんのような「長く付き合う病気」では、就業不能保険の役割がほかのがん種より相対的に大きくなりやすい。がん保険との組み合わせで設計することで、長期治療の経済的リスクを分散できる。自分に合った就業不能保険の選び方は「死亡保険・収入保障保険の徹底比較」もあわせて読んでほしい。

まとめ

月40万円の薬で治療を続ける知人を見て、改めて考えさせられた。

高額療養費があっても、毎月の負担は消えない。診断給付金は一度出れば終わる。入院型の給付金は外来・通院治療には機能しない。

血液のがんは、出口の見えない治療費との戦いになることがある。

だからこそ、備えの設計が重要になる。

あなたが今持っているがん保険は、長期通院型の病気を想定した設計になっているか。治療給付金はついているか。就業不能のリスクはカバーされているか。

一度、確認してみてほしい。

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かながわFP相談所(奈良県橿原市)は保険・NISA・住宅ローン・ライフプランを中立な立場でサポートする独立系FPです。橿原市・奈良市・大和高田市・桜井市など奈良県全域+全国オンライン対応。

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この記事を書いた人

かながわFP相談所

AFP2級FP技能士宅地建物取引士二種証券外務員

奈良県橿原市の独立系FP。外資系生保・乗合代理店・不動産会社での実務を経て独立。特定の保険会社・金融機関に属さない中立的な立場から、保険見直し・NISA・住宅ローン・ライフプランニングなど家計全般のご相談に対応。IFAとして資産運用アドバイスも行っています。

奈良・橿原でFPとして活動を始めて8年。2025年に二度の手術を経験し、病室で痛感したことがあります。人は心身が揺らいだ瞬間、どれほど知識があっても正しい判断ができなくなるという現実です。数字の正解より、迷った瞬間に隣で一緒に地図を広げる存在でありたい。

≫ 52歳、FP金川が病室で見た真実と、詳しい経歴はこちら