舌切り雀|おばあさんがたどった道は投資詐欺の手口そのもの?大きいつづらの教訓をFPが検証

「大きいつづらと小さいつづら、どちらにしますか?」
舌切り雀の、いちばん有名な場面だ。欲のないおじいさんは小さいつづらを選んで宝物を手にし、欲張りなおばあさんは大きいつづらを選んで化け物に襲われる。
子どものころは「欲張るとバチが当たる」という教訓だと思って読んでいた。ところがFPという仕事をしていると、大人になって読み返したときに、別のものに見えてしまう。
おばあさんがたどった道は、今の投資詐欺の手口とそっくりなのだ。
結論から言うと、おばあさんの失敗は「大きいつづらを選んだこと」ではない。他人の成功話を聞いて、自分から出向き、選ばされ、中身を確かめずに持ち帰った。その一つひとつが、詐欺に引っかかる典型的な流れになっている。
……昔話なのに、なかなか生々しい。
まず、あらすじをおさらい
伝わる話によって細部は違うが、おおまかな筋はこうだ。
- おじいさんがかわいがっていた雀が、おばあさんの作った洗濯のりをなめてしまう。怒ったおばあさんは、雀の舌を切って追い出す
- おじいさんは雀を探して山へ行き、雀のお宿でもてなしを受ける。帰りに「大きいつづらと小さいつづら、どちらか好きなほうを」と言われ、小さいほうをもらう。家で開けると、宝物が入っていた
- それを聞いたおばあさんは、自分も宝物をもらおうと雀のお宿へ出かけ、大きいつづらを選ぶ。家に着く前に開けると、中から化け物や蛇が飛び出してくる
令和の詐欺はこんなに増えている
昔話の話に入る前に、現実の数字を見ておきたい。警察庁によると、2025年のSNS型投資詐欺は9,523件、被害額は約1,288億円。件数も被害額も、前の年より5割近く増えた。
最初の接触のきっかけは、インターネットのバナーなどの広告が3,785件、ダイレクトメッセージが3,549件。知らない相手からの声かけが入口になっている。
▶ 令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)(警察庁)
では、おばあさんの行動を、この現実の手口に重ねてみる。もちろん、これは昔話を現代の投資詐欺に当てはめた筆者の解釈だ。
おばあさんがたどった「詐欺に引っかかる4つの流れ」
1. 他人の成功話を聞く
おばあさんが雀のお宿へ行ったのは、おじいさんが宝物をもらったと聞いたからだ。自分で調べたわけではない。身近な人がうまくいった話を聞いて、「自分も」と思った。
投資詐欺の入口も同じだ。「知り合いがこれで儲かった」「有名人もやっている」。他人の成功話は、いちばん疑いにくい入口になる。実際に、有名人を名乗る広告から誘い込む手口は後を絶たない。
2. 自分から出向く
おばあさんは、自分の足で雀のお宿まで行った。誘われたのではなく、自分で選んで行ったと思っている。
投資詐欺でも、広告やメッセージを入口に、LINEのグループや専用のサイトへ本人が自分で移り、最後は自分で振り込む形に持ち込まれるケースがある。自分で選んだと思っているほど、疑う気持ちは働きにくい。
3. 「どちらにしますか?」と選ばされる
ここがいちばん大事な場面だ。雀は「つづらを持って帰りますか?」とは聞いていない。「大きいのと小さいの、どちらにしますか?」と聞いている。
この聞き方では、「もらわない」という選択肢が最初から消えている。詐欺の勧誘でもよく使われる形で、「投資するかどうか」ではなく「どのプランにしますか」「いくらから始めますか」と、始める前提で選ばせてくる。選んだ時点で、もう相手の土俵に乗っている。
4. 中身を確かめずに持ち帰る
大きいつづらは重かった。おばあさんは、中身を確かめずに背負って帰ろうとした(そして、待ちきれずに途中で開けた)。
投資詐欺でも、お金を渡した先で実際に何が起きているかは見えない。画面の上では利益が増えているように見えても、引き出そうとした途端に「手数料が必要」「税金を先に払え」と言われ、お金は戻ってこない。開けてみたら化け物、というわけだ。
本物の投資と詐欺の違いは「つづらの大きさ」ではない
ここで誤解してほしくないのは、大きいつづらを選ぶこと自体が悪いわけではないということだ。投資の世界では、大きな利益を狙えば、そのぶん大きく損をする可能性もある。リスクとリターンは、いつもセットになっている。
本物の投資は、「大きいつづらには化け物が入っているかもしれません」と、最初にきちんと説明する。詐欺は「大きいつづらにも、化け物は絶対に入っていません」と言う。高いリターンを約束しながらリスクはないと言う話は、それだけで疑っていい。
おばあさんの本当の失敗は、欲張ったことよりも、その確認をしなかったことだ。
令和のおばあさんにならないために
投資の話を持ちかけられたら、次のことを確かめたい。
- 相手は登録を受けた業者か。金融庁のウェブサイトで、免許・登録を受けている業者の一覧を確認できる。登録のない業者が投資を勧めてくるのは、それだけで危険信号
- 振込先は個人の口座ではないか。会社ではなく個人名義の口座へ振り込ませる時点で、正規の取引ではない
- 「必ず儲かる」「元本保証で高利回り」と言っていないか
- 引き出しの前に「手数料」「税金」を求められていないか
少しでもおかしいと感じたら、振り込む前に相談してほしい。消費者ホットライン「188(いやや)」や、警察の相談専用電話「#9110」が窓口になる。
詐欺の手口と、人がなぜ止まれなくなるのかは、こちらの記事でも詳しくまとめている。
▶ 【実例あり】投資詐欺の手口をFPが解説|暗号資産で580万円被害…漫画家はなぜ止まれなかったのか
▶ それ詐欺かも!FPが警告する身近な金融トラブル最新手口と対策
おまけ:頼んでいないつづらが届いたら
ちなみに現代では、注文していない商品が一方的に送られてきて、あとから代金を請求される「送り付け商法」もある。これについては、法律がはっきり決めている。
販売業者は、(中略)売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合(中略)には、その送付した商品の返還を請求することができない。
(出典:特定商取引法 第59条第1項)
頼んでいないつづらが家に届いても、代金を払う必要はなく、返す必要もない。慌てて振り込まないことだ。
そしてもうひとつ、おまけのツッコミを。野生の雀は、法律で原則として捕まえることが禁じられている(鳥獣保護管理法 第8条)。おじいさんの「かわいがっていた雀」も、令和の世なら別の意味で問題になったかもしれない。
FPの視点:つづらを選ぶ前に、誰かに見せる
おばあさんに足りなかったのは、つづらを持ち帰る前に「これ、大丈夫かな」と誰かに見せることだった。
投資の話も同じだ。うまい話ほど、ひとりで決めずに、利害関係のない第三者に一度見せてほしい。家族でも、窓口でも、FPでもいい。見せた途端に「それはおかしい」と分かる話は、意外と多い。
つづらは、開ける前に選び直せる。
参考にした情報
- 警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」
- e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律」第59条
- e-Gov法令検索「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」第8条
※本記事では、統計・法律の文言そのもの(引用部分)と、それを昔話の設定に当てはめた解釈とを区別して書いている。後者は筆者の考え方である。被害にあった、または被害にあいそうなときは、消費者ホットライン(188)や警察(#9110、緊急時は110)にすぐ相談してほしい。
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※本記事は昔話「舌切り雀」を題材にしたフィクション考察である。物語の細部は伝わる話によって異なる。現実の制度・統計をFPの立場から当てはめて分析したもので、特定の作品・映像化作品とは関係がない。

この記事を書いた人
かながわFP相談所
AFP2級FP技能士宅地建物取引士二種証券外務員
奈良県橿原市の独立系FP。外資系生保・乗合代理店・不動産会社での実務を経て独立。特定の保険会社・金融機関に属さない中立的な立場から、保険見直し・NISA・住宅ローン・ライフプランニングなど家計全般のご相談に対応。IFAとして資産運用アドバイスも行っています。
奈良・橿原でFPとして活動を始めて8年。2025年に二度の手術を経験し、病室で痛感したことがあります。人は心身が揺らいだ瞬間、どれほど知識があっても正しい判断ができなくなるという現実です。数字の正解より、迷った瞬間に隣で一緒に地図を広げる存在でありたい。
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