大腸がんの治療費と保険の備え方|罹患数1位なのに、なぜか話題にならないがんの現実
がん保険の話をするとき、多くの人が思い浮かべるのは乳がんや肺がんだ。
ところが、日本でいちばん多く罹患されているがんは、実は大腸がんだ。厚生労働省の全国がん登録によれば、2021年の罹患数は15万4千人超で全がん中1位。男女ともに罹患数の上位2位に入り、死亡数でも男性2位・女性1位と、静かに人々の命を奪い続けている。
にもかかわらず、「大腸がんとお金」の話をしている人は少ない。「大腸がん=怖い病気」という認識が薄いまま、備えが後回しになっていないか。今日はFPとして、この問いに正面から向き合う。
大腸がんとはどんながんか
大腸がんは、結腸と直腸に発生する悪性腫瘍の総称だ。初期はほとんど自覚症状がない。血便や便通の変化が現れたころには、すでにある程度進行していることも珍しくない。
一方で、早期に発見できれば予後は良好だ。ステージⅠの5年生存率は98%という数字が示されており、早期発見・早期治療が「治るがん」の代表格でもある。
ステージが進むにつれて話は変わる。ステージⅣになると5年生存率は大きく下がり、手術不能の場合、抗がん剤治療だけで総額828万円にのぼるというデータもある。
大腸がんの恐ろしさは、「早期は痛くも痒くもない」という点にある。だから検診を受けない。気づいたときには進んでいる。これが問題の本質だ。
大腸がんの治療費——「医療費」だけ見ると楽観しすぎる
大腸がんの標準治療は、手術・放射線・薬物療法の3大治療だ。早期なら内視鏡での切除や腹腔鏡手術、進行がんなら開腹手術+術後の抗がん剤治療が一般的なコースになる。
公的保険の高額療養費制度が効くので、毎月の自己負担は所得によって一定に抑えられる。年収370万〜770万の一般的な会社員であれば、月の上限は約8万円。入院・手術の医療費だけを見れば、「そこまで怖くない」と感じるかもしれない。
だが、ここで楽観するのが危険だ。理由は2つある。
①医療費は高額療養費で抑えられるが、「それ以外の費用」がかかる
差額ベッド代、タクシー代、ウィッグや補正用品、食事代の自己負担分——これらは高額療養費の対象外だ。術後の通院交通費も積み重なる。抗がん剤の副作用対策に使う市販薬も、保険は効かない。
さらに、「健康的な食事やサプリメントにかけるお金」という発想が出てくるのもがん特有の現象だ。
②治療が長期化するほど「収入への影響」が深刻になる
大腸がんと診断されたあと、仕事を休職・退職する人は全体の約73%にのぼる(国立がん研究センター患者体験調査)。医療費よりも、この「収入の穴」のほうが家計への打撃が大きいケースが多い。
実例で見る「5年間の本当のコスト」
ここで、ある男性のケースを紹介する(第一ネオ生命「がん治療と仕事とお金のはなし DATA BOOK」2026年4月版より)。
26歳でS状結腸がんⅢB期と診断された会社員男性(妻あり)
腹痛と下痢が続いたため総合病院を受診。大腸内視鏡検査でS状結腸がんⅢB期と診断。リンパ節に27個の転移があり、緊急入院して腸管切除手術・リンパ節郭清を行った。その後、術後薬物療法(カペシタビン+ベバシズマブ)を約半年実施し、以後は定期検査を継続。
罹患後5年間の自己負担額は次の通りだ。
| 内容 | 自己負担額 |
|---|---|
| 精密検査(大腸内視鏡など) | 約5万9千円 |
| 入院・手術(21日間、2ヶ月にまたがる) | 約13万1千円 |
| 術後薬物療法(抗がん剤・約半年) | 約38万5千円 |
| 定期検査(CT・内視鏡・2〜5年目) | 約28万2千円 |
| 医療費の自己負担合計 | 約85万7千円 |
数字だけ見ると「5年で85万円か」と思うかもしれない。だが、この事例には続きがある。
この男性は、免疫力を上げようと野菜・果物中心の食事に切り替え、「デザイナーフーズ」と呼ばれる食事療法を実践した。その費用が月5万円×4年間=約240万円。
医療費85万7千円より、「かける費用」のほうがはるかに大きくなった。
ここに、がん治療の本当のコスト構造が見える。医療費は高額療養費でかなり抑えられる。だが、「治りたい」という気持ちから発生する支出は、制度の外側にある。食事・サプリメント・スポーツジム・家事代行——どこまで「かける」かは本人次第で、青天井になりうる。
仕事については、職場復帰後は事務仕事に変更してもらい年収が350万円に減少。その後転職し、現在は約450万円。収入の減少額は約50万円に収まったが、5年間にわたって本人・家族の生活に影響が続いた。
「かかる費用」と「かける費用」——FPとして伝えたいこと
この実例が示す教訓を、FPとして整理する。
「かかる費用」は公的制度でかなり守られる
手術・入院・抗がん剤の医療費は、高額療養費制度のおかげで月上限8万円前後(一般的な所得の場合)に収まることが多い。長期入院が続けば多数回該当でさらに下がる。公的制度の守りは想像より厚い。
「かける費用」はどこにも上限がない
代替療法・食事療法・健康食品・家事代行・セカンドオピニオン(自由診療)——これらはすべて自費だ。「治りたい」という気持ちに際限はなく、がん患者の家計がここで大きく崩れることがある。
「収入の減少」が最大のリスクであることは変わらない
大腸がん患者も含め、がん患者全体の約73%が休職・退職を経験する。医療費の自己負担より、数年にわたる収入の減少のほうが家計への影響が大きいケースは珍しくない。
がん保険を選ぶとき、「診断一時金はいくら出るか」だけを見ている人は多い。だが本当に必要な問いは「収入が止まった場合、何ヶ月分の生活費が確保できるか」だ。
大腸がんと保険——何を備えるべきか
では、具体的にどんな備えが有効か。
①診断一時金は「医療費以外の支出」をカバーするものと理解する
医療費本体は高額療養費で抑えられる。診断一時金は、食事療法・代替療法・一時的な生活費の補填に使えるお金と考えるほうが実態に近い。
②収入保障こそが本丸
治療中・治療後の収入減少に備えるには、就業不能保険や収入保障保険が有効だ。特に自営業・フリーランスは傷病手当金がないため、この備えが最優先になる。
③貯蓄の厚みが緩衝材になる
「生活費の6ヶ月分の貯蓄」は、あらゆるリスクに対する基本的なバッファだ。がん治療中でも、貯蓄がある人とない人では、選択肢の広さが根本的に違う。
④大腸がんは検診で防げる部分が大きい
定期的な大腸内視鏡検査(もしくは便潜血検査)で早期発見できれば、治療費も体への負担も格段に小さくなる。40歳を超えたら、大腸がん検診を毎年の習慣にすることを強くすすめる。保険よりも先に、検診だ。
知っておきたいワンポイント
治療が2ヶ月にまたがると高額療養費が使いにくくなることがある。実例の男性も「2ヶ月にまたがる入院」が1つの負担ポイントになった。可能であれば、治療のタイミングを月内に収められないか主治医に相談してみることも一つの方法だ。
また、大腸がんの術後抗がん剤治療(月々の費用が高額療養費制度の上限に届かないケース)では、制度が使えずに全額自己負担になることがある。治療計画が決まったら早めに確認しておきたい。
まとめ
大腸がんは日本で最も多く罹患されているがんだ。早期なら治る。だから早く見つける必要がある。
治療費だけ見れば、高額療養費制度の守りは厚い。しかし問題は「かける費用」と「収入の減少」にある。この二つは制度の外にあり、備えを考えていない人には静かに大きな打撃をもたらす。
がん保険を持っているから安心、ではなく。今の備えが「医療費」しかカバーしていないなら、再確認の必要がある。
大腸がんになったとき、今の備えで本当に足りますか?
大腸がんに限らず、がんになったときのお金の不安は「医療費」だけではありません。収入が止まったとき、治療以外の費用をどう賄うか——今の備えで本当に足りるかを、一度一緒に確認してみませんか。保険を売るための相談ではなく、家計全体の穴を整理する相談です。
この記事を書いた人
かながわFP相談所
AFP2級FP技能士宅地建物取引士二種証券外務員
奈良県橿原市の独立系FP。外資系生保・乗合代理店・不動産会社での実務を経て独立。特定の保険会社・金融機関に属さない中立的な立場から、保険見直し・NISA・住宅ローン・ライフプランニングなど家計全般のご相談に対応。IFAとして資産運用アドバイスも行っています。
奈良・橿原でFPとして活動を始めて8年。2025年に二度の手術を経験し、病室で痛感したことがあります。人は心身が揺らいだ瞬間、どれほど知識があっても正しい判断ができなくなるという現実です。数字の正解より、迷った瞬間に隣で一緒に地図を広げる存在でありたい。
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