がんになると収入はどうなる?休職・退職を経験した人が7割超という現実

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療・保険アドバイスではありません。治療方針・費用については担当医に、保険の選び方については専門のFPにご相談ください。薬剤費・医療費は参考値であり、実際の費用は個人の状況により異なります。
がん診断後の収入減少リスクと就労継続の現実、傷病手当金や就業不能保険による家計防衛策を解説するイメージ画像

身内のがん診断から、私が学んだこと

以前、家族ががんの診断を受けた。

最初に頭をよぎったのは「治るのか」という不安だった。しかし、その次に来たのは「これから、どうやって生活するのか」という現実的な恐怖だった。

当時の家族は会社員だった。入院・手術・抗がん剤(ホルモン剤)治療と続き、仕事を休まざるを得ない期間が生まれた。「傷病手当金があるから大丈夫」と周囲は言ったが、実際には収入が2/3に減り、医療費・交通費・日用品の追加支出が重なった。数字の上では赤字ではなかったが、心理的な圧迫は相当なものだった。

そして後から知ったのが、家族のような「仕事を続けられた」ケースは、実は少数派だということだ。

がん診断後に73%が休職・退職を経験する現実

国立がん研究センターの調査によると、がん診断後に「仕事を続けた」と答えた人は27.3%に過ぎない。残りの72.8%は、休職・休業(53.4%)か退職・廃業(19.4%)を経験している。(出典:国立がん研究センター「患者体験調査報告書」令和5年度調査)

この数字をもう少し具体的に見ると、以下のような状況に分類される。

  • 仕事を続けた:27.3%
  • 休職・休業:53.4%
  • 退職・廃業:19.4%

さらに収入への影響を見ると、がん罹患後に「本人の収入が減った」と答えた人は49.4%にのぼる。約半数ががん診断後に収入の減少を経験しているということだ。(出典:東京都福祉保健局「東京都がん医療等に係る実態調査」平成31年3月)

つまり、この数字が示すのは、「がんになっても働ける」という楽観ではなく、「がんになったら大半の人が働き方を変えざるを得ない」という現実だ。

確かに医療の進歩でがんの生存率は上がった。だが「生存できること」と「以前と同じように働けること」は、全く別の話だ。

収入が止まると、家計にどれだけのダメージが来るか

月収40万円(額面)の会社員が、がん治療のために3ヶ月休職するケースを試算してみよう。

まず収入の変化から見る。休職中は傷病手当金が支給される。支給額は「標準報酬日額 × 2/3」が基本だ。月収40万円なら、傷病手当金は約26〜27万円程度になる。約13〜14万円の収入減少が発生する。

次に支出の変化だ。入院・治療費は高額療養費制度で一定額に抑えられるが、以下は自己負担になる。

  • 差額ベッド代(個室希望の場合):1日3,000〜10,000円以上
  • 入院中の食事代:1食460円 × 3食 × 入院日数
  • 通院交通費:治療によっては月数回〜十数回
  • 医療用ウィッグ・補正下着などの用品費
  • 家族の付き添い・見舞いの交通費・時間コスト

この追加支出が月3〜10万円程度発生するとすれば、収入減少との合計で月15〜25万円の家計ダメージになる。3ヶ月続けば45〜75万円。半年なら90〜150万円だ。

貯蓄がある人でも、この規模の出費は精神的に堪える。そして貯蓄が100万円未満の家庭では、治療の選択肢そのものが制約される現実がある。

会社員が使える制度:傷病手当金の仕組みと限界

会社員(健康保険加入者)が就労できなくなった場合、傷病手当金を受け取ることができる。

支給条件:業務外の病気・ケガで仕事を休み、連続して3日以上就労できない状態が続くこと。4日目から支給が始まる。

支給額:標準報酬日額(過去12ヶ月の平均報酬 ÷ 30)× 2/3。月収40万円(額面)なら、月額約26〜27万円程度が目安だ。

支給期間:最長1年6ヶ月(2022年の改正で、途中で復職した期間も通算するようになった)。

傷病手当金は、会社員にとって強力なセーフティネットだ。しかし2つの限界がある。

第一に、1年6ヶ月という上限がある。大腸がんや乳がんでは、治療が2〜3年続くケースも珍しくない。1年6ヶ月を過ぎると傷病手当金は打ち切られ、その後の収入は自己負担になる。

第二に、フリーランス・自営業者は対象外だ。国民健康保険には傷病手当金の仕組みがなく、独立した瞬間にこの制度を失う。

※傷病手当金の詳しい仕組みは傷病手当金の仕組みと申請方法を詳しく解説した記事も参照してほしい。

フリーランス・自営業者の現実:補償ほぼゼロ

フリーランスや自営業者ががんで仕事を続けられなくなった場合、公的な収入補償はほぼ存在しない。

傷病手当金は使えない。失業給付は自営業者には適用されない。廃業しても失業保険はない。

残るのは、国民年金から支給される障害基礎年金だけだが、これは後述する通り受給のハードルが高い。

月収50万円のフリーランスが、がん治療で3ヶ月完全に仕事を休んだとする。その損失は単純計算で150万円。貯蓄がなければ、即座に家計が崩壊する水準だ。

会社員から独立した直後のフリーランスが最も無防備な状態にある。「会社を辞めた=傷病手当金を失った」という事実を、独立時に意識している人は少ない。

※フリーランスの収入リスクについては台風で分かる会社員とフリーランスの差——就業不能保険の必要性も参考にしてほしい。

障害年金:がんで受け取れるのか

障害年金は、病気やケガで障害状態になったときに受け取れる公的年金だ。

会社員(厚生年金加入者)は障害厚生年金(1〜3級)、フリーランス(国民年金加入者)は障害基礎年金(1〜2級)の対象になる。

金額の目安:

  • 障害基礎年金1級:約97万円/年(2024年度)
  • 障害基礎年金2級:約78万円/年(2024年度)
  • 障害厚生年金:報酬比例で個人差が大きい(1〜3級)

受給できるケース(例):

  • 人工肛門や人工膀胱を造設し、日常生活が著しく制限される状態
  • 化学療法の副作用で骨髄機能が著しく低下し、輸血が必要な状態
  • 転移・再発で終日臥床を要する状態

受給できないケース(多数):

  • 手術で腫瘍を切除し、経過観察中(仕事に復帰できる状態)
  • 抗がん剤治療中だが、外来通院で日常生活はある程度できる状態
  • 再発リスクはあるが、現時点で障害状態に該当しない

現実として、多くのがん患者は「治療中ではあるが、障害状態には該当しない」というグレーゾーンに置かれる。障害年金は存在するが、がん患者全体にとっての収入補償にはなりにくい制度だ。

とはいえ、重度の状態になった場合は申請する価値が十分ある。専門家(社会保険労務士)への相談を推奨する。

就業不能保険:傷病手当金が切れた後を埋める

会社員の傷病手当金は1年6ヶ月で終わる。フリーランスには最初からない。

この「収入の空白」を埋めるのが、民間の就業不能保険・所得補償保険だ。

就業不能保険は、医師の診断によって「就業不能状態」と認定された場合に、毎月一定額の給付金を受け取れる仕組みだ。

設計の目安:

  • 会社員:傷病手当金(最長1年6ヶ月)終了後から給付が始まる設計 + 月10〜15万円程度
  • フリーランス:診断日から早期に給付が始まる設計 + 月15〜20万円程度
  • 保険料の目安:月3,000〜8,000円程度(年齢・保障内容による)

注意すべきは、「精神疾患をカバーするか」「免責期間は何日か」「支払われる期間は何年か」という条件が商品によって大きく異なる点だ。がんをはじめとした三大疾病への対応が手厚い商品を選ぶことが重要になる。

※就業不能保険の詳しい解説は就業不能保険と障害年金で備える方法を解説していますも参照してほしい。

3本柱で「収入が止まるリスク」に備える

がん診断後の収入減少に備えるには、以下の3本柱を組み合わせることが現実的だ。

第1の柱:生活防衛資金(最低6ヶ月分)

まず「すぐに動かせる現金」を確保することが最優先だ。月30万円の生活費なら、最低180万円の現金が必要になる。がん治療の初期対応には即座に資金が必要になるため、NISA・投資信託ではなく現金・預金で持っておく。

第2の柱:公的制度の最大活用

会社員は傷病手当金(最長1年6ヶ月)を必ず申請する。申請漏れは損失だ。重度の障害状態になった場合は障害年金も検討する。高額療養費制度・限度額適用認定証も事前に準備しておく。

第3の柱:就業不能保険で公的制度の穴を埋める

傷病手当金が切れた後、フリーランスには最初から、就業不能保険で収入の一定額を確保する。月々の保険料は数千円で、「仕事が止まる」というリスクに対する安心感は大きい。

この3本柱は、がんに限らず「働けなくなるリスク全般」への備えになる。脳卒中・心疾患・精神疾患でも同様の備えが機能する。

まとめ:「生存率が上がった時代」だからこそ、長期の収入設計が必要

がんで亡くなる時代から、がんと共に生きる時代に変わった。

だからこそ、「がんになったとき、どう生き延びるか」だけでなく「がんになったとき、生活をどう維持するか」という視点が不可欠になっている。

73%が休職・退職を経験するというデータは、「自分は大丈夫」という根拠のない楽観が通用しないことを示している。

傷病手当金の仕組みを知り、障害年金の条件を理解し、就業不能保険で穴を埋める。この3本柱を事前に整えることが、がんに対する「経済的な備え」の全体像だ。

そして最も重要なのは、「健康なうちに設計すること」だ。がん診断後に保険加入はできない。傷病手当金は独立した瞬間に失う。準備できるのは、今しかない。

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かながわFP相談所

この記事を書いた人

かながわFP相談所

AFP2級FP技能士宅地建物取引士二種証券外務員

奈良県橿原市の独立系FP。外資系生保・乗合代理店・不動産会社での実務を経て独立。特定の保険会社・金融機関に属さない中立的な立場から、保険見直し・NISA・住宅ローン・ライフプランニングなど家計全般のご相談に対応。IFAとして資産運用アドバイスも行っています。

奈良・橿原でFPとして活動を始めて8年。2025年に二度の手術を経験し、病室で痛感したことがあります。人は心身が揺らいだ瞬間、どれほど知識があっても正しい判断ができなくなるという現実です。数字の正解より、迷った瞬間に隣で一緒に地図を広げる存在でありたい。

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