がん保険の期待値をFPが計算してみた|3パターンで見える「損得を超えた現実」

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療・保険アドバイスではありません。治療方針・費用については担当医に、保険の選び方については専門のFPにご相談ください。薬剤費・医療費は参考値であり、実際の費用は個人の状況により異なります。
がん保険の期待値をFPが数字で解説することをイメージしたシンプルな日本語デザイン。安心感と合理性を表現。

「保険は損だ」という人がいる。

数学的には、ある意味で正しい。保険会社は利益を出して存在しているのだから、加入者全員が「得」をする設計にはなっていない。

でも、だから入らなくていい——というのは、別の話だ。

今回は、あえて期待値の計算をしてみる。数字で見ることで、「損得計算そのものの限界」が浮かび上がってくる。そこが、この記事の本題だ。

まず「期待値」とは何か

期待値とは、「確率×結果」の掛け算で出る average 的な値のこと。

たとえば、50%の確率で100万円もらえるくじがある。期待値は50万円だ。このくじが60万円で売られていたら「損」、40万円なら「得」——という考え方が期待値思考だ。

これをがん保険に当てはめてみよう。

【計算①】34歳・会社員男性のケース

  • 加入年齢:34歳
  • 月額保険料:1,940円
  • 診断一時金:100万円
  • 82歳まで生存と仮定(48年間加入)

生涯の総支払額:1,940円 × 12ヶ月 × 48年 = 約111万円

次に、がんに罹患する確率。厚生労働省の統計では、日本人男性が生涯でがんと診断される確率は約65%(2019年データ)。

給給の期待値:100万円 × 65% = 65万円

支払総額111万円に対して、期待値65万円。数字だけ見れば「46万円の損」だ。

……でも、ちょっと待ってほしい。

【計算②】34歳・自営業男性のケース

同じ条件で、自営業者の場合はどうなるか。

会社員との最大の違いは、傷病手当金がないことだ。

会社員なら、がんで休職しても給与の約2/3が最長1年6ヶ月支給される。月収30万円なら、最大で約360万円の公的給付が使える。

自営業者には、それがない。治療で3ヶ月仕事を休めば、収入はゼロだ。

会社員自営業者
診断一時金(例)100万円100万円
傷病手当金(3ヶ月)約60万円❌ なし
実質的な手元資金約160万円100万円のみ

自営業者にとって、がん保険の一時金が担う役割は会社員より格段に重い。「期待値46万円の損」という計算は、この非対称性を完全に無視している。

【計算③】32歳・共働き女性のケース

女性の場合、乳がん・子宮がんの罹患リスクが30〜40代から急上昇する。

  • 加入年齢:32歳
  • 月額保険料:1,680円(女性向けプラン)
  • 診断一時金:100万円
  • 82歳まで生存と仮定(50年間加入)

生涯の総支払額:1,680円 × 12ヶ月 × 50年 = 約100万円

日本人女性の生涯がん罹患確率は約51%。

給付の期待値:100万円 × 51% = 51万円

こちらも数字上は「49万円の損」だ。

ただし、この女性が小学生の子どもを抱えていたとしよう。乳がんの標準治療は手術+ホルモン療法で5〜10年に及ぶことがある。その間、子どもの送迎・家事・習い事の費用が続く。

保険の一時金100万円が、「治療に専念するための時間」を買う。それを期待値の計算式に入れることは、できない。

期待値計算の「3つの限界」

ここまで3パターンを計算してきた。どれも数字上は「損」だった。でも、その計算には根本的な欠陥がある。

限界① がんになるタイミングが読めない

期待値は「平均」の話だ。でも、がんは34歳で診断されることもあれば、72歳で診断されることもある。

34歳で加入して35歳でがんになれば、支払保険料は約2.3万円、受取額は100万円。期待値の計算など吹き飛ぶ。逆に一度も罹患しなければ、111万円は「無駄」になる。

リスクは平均で起きない。個人に起きる。

限界② 「がんになった後の意思決定コスト」が計算に入っていない

がんと診断された瞬間、人の判断能力は落ちる。

手元に一時金がある人とない人では、治療選択・復職判断・家族への影響が変わる。その差は、金額では測れない。でも確実に存在する。

→ 詳しくはこちら:がん保険は「治療費」の保険ではない

限界③ 保険は「資産形成」ではなく「リスク移転」だ

期待値で損得を語るのは、保険を「投資」として見ているからだ。でも保険の本質は、個人が抱えきれないリスクを、保険会社に移転することにある。

損得の問題ではない。設計が違う。

では、いくらの一時金が必要か

属性推奨一時金の目安理由
会社員(傷病手当金あり)100〜150万円公的給付で収入は一定確保できる。差額ベッド・セカンドオピニオン・生活費補填が主な用途
自営業・フリーランス200〜300万円以上傷病手当金なし。収入ゼロ期間を一時金でカバーする必要がある
共働き・子育て中150〜200万円家事・育児の外注費、子どもの習い事継続費が上乗せで必要になる

いずれも「治療費」のためではない。治療に専念するための生活コストのための金額だ。

まとめ:「損か得か」は間違った問いだった

  • 期待値で計算すると、がん保険は数字上「損」になることが多い
  • ただし計算には「タイミング・意思決定コスト・公的給付の差」が入っていない
  • 自営業者・共働き・子育て世代では、一時金の役割が会社員より重い
  • 保険は投資ではなく、リスク移転の手段——損得で語る設計ではない
  • 目安は会社員100〜150万円、自営業200万円以上

「計算すれば答えが出る」と思っていた人ほど、計算してみると答えが出ないことに気づく。

それが、保険というものの本質だと思っている。

→ 関連記事:血液のがんは、出口の見えない治療費との戦いだった

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この記事を書いた人

かながわFP相談所

AFP2級FP技能士宅地建物取引士二種証券外務員

奈良県橿原市の独立系FP。外資系生保・乗合代理店・不動産会社での実務を経て独立。特定の保険会社・金融機関に属さない中立的な立場から、保険見直し・NISA・住宅ローン・ライフプランニングなど家計全般のご相談に対応。IFAとして資産運用アドバイスも行っています。

奈良・橿原でFPとして活動を始めて8年。2025年に二度の手術を経験し、病室で痛感したことがあります。人は心身が揺らいだ瞬間、どれほど知識があっても正しい判断ができなくなるという現実です。数字の正解より、迷った瞬間に隣で一緒に地図を広げる存在でありたい。

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