がんになったらお金はどうなる?治療費・保険・収入減への備えをFPが解説

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療・保険アドバイスではありません。治療方針・費用については担当医に、保険の選び方については専門のFPにご相談ください。薬剤費・医療費は参考値であり、実際の費用は個人の状況により異なります。
がんになったらお金はどうなるのか。治療費・公的制度・がん保険・収入減少への備えをFPが解説する記事のアイキャッチ画像。家計簿と保険証券を前に表情を曇らせる中高年夫婦

「がんです」

その一言を告げられた瞬間、多くの人が最初に考えるのは治療のことだ。

しかし相談を重ねてきた経験から言うと、告知から数週間が経った頃、必ずといっていいほど別の不安が浮かび上がってくる。

お金のことだ。

治療費はいくらかかるのか。仕事は続けられるのか。保険は出るのか。貯蓄は足りるのか。

これらは感情が落ち着いてから考えることではない。診断直後から、家計は動き始めている。

本記事では、がんになった時に直面するお金の問題を、治療費・公的制度・保険・収入減少という4つの軸で整理する。

「がん保険に入っておけばいい」という結論を出したいわけではない。

まずお金の全体像を知ること。それがすべての出発点になる。

がんとお金の悩み別ガイド

このページでは、がんと診断された後に直面するお金の問題を領域ごとに整理している。気になるテーマから読んでほしい。

仕事・収入

住宅・資産

保険

公的制度

がんになったら最初に直面するお金の現実

がん告知後、多くの患者が最初に戸惑うのは「何にいくらかかるのかわからない」という状態だ。

治療方針が決まる前から、検査費用・入院の準備・仕事の調整が同時進行で始まる。心が揺れている時期に、お金の決断を迫られる場面が必ず来る。

「がんの社会学」に関する研究グループの調査では、がん診断後に依願退職または解雇を経験した人は約34%、自営業者では約13〜17%が廃業に至ったと報告されている(2003年・2013年調査)。

つまりがんは「治療費の問題」だけではない。

収入が止まりながら、支出が増えるという二重のダメージが家計を直撃する。

FPとして相談を受けていると、医療費そのものよりも「収入が減る中で住宅ローンや教育費をどう支払うか」に悩まれる方が少なくない。特に40〜50代は、ローン残高・教育費・親の介護が重なる時期と重なりやすい。

特に自営業・フリーランス・パート勤務の方は、会社員と比べて公的な収入補償が薄い。この差は後述する。

まずは「がんによって発生するお金の問題」を整理することから始めよう。

がん治療で必要になるお金の全体像

がん治療にかかるお金は、大きく5つに分類できる。それぞれに「見えやすいもの」と「見えにくいもの」がある。

①医療費(保険診療の自己負担)

手術・入院・抗がん剤・放射線治療などは公的医療保険が適用される。3割負担が基本だが、治療が長期化すれば累積額は相当な金額になる。

治療内容によっては、保険診療内の自己負担だけで数十万円規模になることもある。高額療養費制度で一定額は抑えられるが、月をまたぐ治療が続けばその分だけ積み上がる。

②先進医療・自由診療費

重粒子線治療・陽子線治療などは公的保険の対象外となる場合がある。費用は数十万円から300万円超になることもある。

「標準治療以外を選びたい」という患者の希望は珍しくない。しかしその選択肢は、経済的な余裕がなければ取れない。受けたくても、地域や設備の都合で選択できない場合もある。

③差額ベッド代・食事代

個室や少人数部屋を希望する場合、差額ベッド代は1日3,000円〜20,000円程度になる。2週間入院すれば4〜28万円の追加負担だ。入院が長引けばそれだけ積み上がる。

食事代は1食460円(標準負担額)。1日3食で約1,400円、30日入院で約4万円になる。「どうせ家でも食費はかかる」と思うかもしれないが、入院中は自炊もまとめ買いもできない。金額は固定で、節約の余地がない。しかも自宅に残った家族の食費は別途かかり続ける。二重の食費負担が静かに家計を削る。

④交通費・日用品・ウィッグなど

通院のたびにかかる交通費は、遠方の病院であれば1回数千円になることもある。抗がん剤治療による脱毛でウィッグが必要になるケースでは、品質によって3万〜30万円の費用がかかる。

こうした「医療費ではないが治療に関連する支出」は、高額療養費制度の対象外だ。見落としやすいが、トータルでは相当な金額になる。

⑤生活費(収入が減った分)

実はここが最も重い。

治療中は働けない期間が発生する。会社員なら有給休暇・傷病手当金で一定期間はカバーできるが、自営業・フリーランスには同様の制度がない。

FP相談の現場では、「医療費は何とかなったが、半年間の生活費が底をついた」という事例を複数経験している。月25万円の生活費なら、6か月で150万円だ。治療費とは別に、この150万円をどこから出すかという問題が発生する。

がんのお金を考える時、医療費だけを見ていると必ず計算が狂う。

公的制度でカバーできること

まず知っておきたいのは、日本の公的制度はがん患者にとってかなり手厚いという事実だ。制度を正しく理解して使うだけで、負担は大きく変わる。

高額療養費制度

1か月の医療費の自己負担額が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される制度だ。所得区分別の自己負担上限額の目安は以下の通りだ。

  • 年収約156万円以下:月約35,400円
  • 年収約370万円以下:月約57,600円
  • 年収約370〜770万円:月約80,100円+α
  • 年収約770〜1,160万円:月約167,400円+α
  • 年収約1,160万円超:月約252,600円+α

なお高額療養費制度は2026年8月から見直しが行われ、自己負担上限額が引き上げられる区分がある。最新情報の確認が必要だ。

具体的には、2026年8月から全区分で上限額が4〜7%程度引き上げられる予定だ(2段階で実施)。年収約370〜770万円の場合、月約8万円→約8万5,800円に変わる見込みとなっている。

また同じ世帯で複数人が医療費を負担している場合、「世帯合算」が使える。夫婦でそれぞれ治療を受けている場合は特に重要だ。

傷病手当金(会社員・公務員)

業務外の病気やけがで働けなくなった場合、標準報酬日額の3分の2が最長1年6か月支給される。

たとえば月収30万円の会社員なら、傷病手当金は月約20万円になる計算だ。1年6か月で最大360万円の給付を受けられる可能性がある。

がん治療で休職する会社員にとって、最も重要な公的給付の一つだ。傷病手当金の計算方法と申請条件も合わせて確認しておきたい。

医療費控除

年間の医療費が10万円を超えた場合、確定申告で所得控除が受けられる。治療費・通院交通費・市販薬も対象になる場合がある。

がん治療を受けた年は医療費が高額になりやすい。確定申告を忘れずに行うことで、数万円単位の還付が受けられるケースも多い。

障害年金

がんが重篤化し、一定の障害状態になった場合は障害年金の受給対象になることがある。見落とされがちな制度の一つだ。たとえば人工肛門(ストーマ)を造設した場合、原則として障害年金3級の認定対象になる。申請には初診日の証明が必要なため、診断時から医療機関との記録を残しておくことが重要だ。

自治体の支援制度

奈良県・橿原市などでは、がん患者向けの相談窓口や生活支援が整備されている場合がある。地域の支援情報はFP相談と合わせて確認することをおすすめする。

公的制度で足りない部分はどこか

公的制度は手厚い。しかし、すべてをカバーしているわけではない。ここを正確に把握することが、保険を選ぶ前提になる。

「高額療養費があるからがん保険は不要」という意見を見かけることがある。しかしがん保険は治療費の保険ではない。この前提を理解しないと、判断を誤る。

カバーされない主な支出

  • 先進医療・自由診療の費用(数十万〜300万円超)
  • 差額ベッド代・食事代
  • ウィッグ・日用品などの雑費
  • 収入減少分の生活費(特に自営業・フリーランス)
  • 精神的負担によるQOL低下への対応費用

傷病手当金の落とし穴

傷病手当金は会社員・公務員に限られる。自営業・フリーランス・パート(一定条件以下)には支給されない。

また支給期間は最長1年6か月だ。それ以降も働けない状態が続いた場合、収入の補填手段がなくなる。血液のがんや再発を繰り返すがんでは、治療が数年単位になることも珍しくない。

高額療養費の3つの盲点

①高額療養費は「月単位」の制度だ。月をまたいで入院・治療が続く場合、毎月上限額まで自己負担が発生する。月末に入院して翌月初旬に退院するだけで、2か月分の上限額がかかることになる。

②先進医療・差額ベッド代・食事代は対象外だ。

③給付まで3か月程度かかる場合がある。立替払いが必要になるため、手元の現金が重要になる。

高額療養費制度と医療保険の組み合わせ方についても理解しておくと判断がしやすくなる。

公的制度を正しく理解した上で、「それでも足りない部分」を把握することが、保険を選ぶ前提になる。

がん保険は何のために入るのか

がん保険の役割を一言で言えば、「公的制度でカバーしきれない部分への備え」だ。

治療費そのものというより、使途自由なまとまったお金を手元に置くための保険と理解した方が正確である。

診断給付金

がんと告知された瞬間、人は「助かりたい」という感情と向き合う。その時、手元に使途自由なお金があるかどうかが、治療の選択肢を左右する。

診断給付金は収入補填だけでなく、「諦めない選択肢を買う」ためのお金でもある。自由診療・免疫療法・遠方の専門病院への受診——これらはすべてお金がなければ諦めることになる。

がんと診断された時点で一時金が支払われる。使途は自由だ。治療費・生活費・ウィッグ代、何に使ってもいい。

金額は商品によって50万円〜300万円程度まで幅がある。相談現場では「診断給付金100万円があったから、先進医療を選択できた」という声を複数聞いている。がん保険が出た人・出なかった人のリアルな事例も参考にしてほしい。

治療給付金(通院給付金)

現代のがん保険では、入院より通院治療が主流になっている。抗がん剤・放射線治療・ホルモン療法などを外来で受けるケースが増えており、「入院しないと給付されない」旧来型の保険では対応できない場面が出てきている。

通院給付金の有無と支払条件は保険選びの重要なポイントだ。「治療給付金」という名称で月単位の一時金を支払う商品も増えている。

上皮内がんの扱い

上皮内がんは保険商品によって給付金が半額になる場合がある。子宮頸がん・大腸がんなどは上皮内がんとして発見されることも多い。上皮内がんと給付金の関係は事前に確認しておきたい。

がん保険で注意すること

がん保険なのに給付金が出ないケースも存在する。免責期間(契約から90日間はがんと診断されても給付されない)・診断基準・支払条件は契約前に必ず確認すること。

なお「保険に入っているから安心」ではなく、「どの条件でいくら出るか」を把握していることが重要だ。がん保険は必要かがん保険の期待値をFPが計算した記事も参考にしてほしい。

働けなくなった時の収入減への備え

がんによる経済的ダメージの本丸は、多くの場合「収入減少」だ。

治療と仕事の両立が課題になる人は少なくない。がんになると収入はどうなるか——現実のデータを把握しておくことが備えの第一歩になる。またがんで退職する前に確認したいことも合わせて読んでほしい。

会社員の場合

傷病手当金(最長1年6か月)+有給休暇の活用で、一定期間は収入を確保できる。月収30万円なら、傷病手当金で月約20万円が入る計算だ。

ただし1年6か月を超えた場合の備えが必要だ。収入保障保険・就業不能保険はこの「長期の収入減少」に対応する。特に住宅ローンを抱えている場合、毎月の返済が止まらない分だけリスクが大きい。

自営業・フリーランスの場合

傷病手当金がない。働けない=即収入ゼロになるリスクがある。国民健康保険には傷病手当金の制度がないため(一部自治体を除く)、備えは完全に自分で用意しなければならない。

就業不能保険の必要性は、自営業・フリーランスにとって会社員以上に高い。月10〜15万円程度の給付が受けられる商品を選ぶことで、最低限の生活費をカバーできる。

就業不能保険を選ぶ際の注意点

精神疾患を保障対象に含むかどうか、待機期間(60日・180日など)はどれくらいかを確認すること。待機期間が長いほど保険料は安くなるが、短期の休業には対応できない。

がんによる就業不能は比較的認定されやすいが、商品によって条件が異なる。複数商品を比較してから選ぶことをおすすめする。

FPとして言えることは一つだ。がん保険で診断給付金100万円を受け取っても、毎月25万円の生活費が6か月・1年と続く支出には追いつかない。収入補填の視点は、がん保険とは別軸で考える必要がある。

がんと診断される前にやっておくべきこと

保険は、がんと診断されてからでは入れない。これは当たり前のことだが、意識して備えている人は少ない。「まだ若いから」「健康診断は異常なしだから」という安心感が、準備を先送りさせる。

保険の棚卸しをする

今加入している保険が、がんの場合にどこまでカバーするかを確認する。診断給付金はあるか。通院給付金はあるか。就業不能への備えはあるか。

「保険に入っている」という安心感と、「実際に出る保険かどうか」は別の話だ。医療保険・がん保険は本当に必要か50代からの医療・がん保険の新常識も合わせて読んでほしい。

特に10年以上前に加入した保険は、現代のがん治療(通院中心・長期化)に対応できていない可能性がある。一度中身を確認することをおすすめする。

貯蓄・緊急予備資金を確保する

生活費の6か月分程度の流動資産は、がんに限らずあらゆるリスクへの基礎的な備えになる。月25万円の生活費なら150万円が目安だ。

これは保険で代替できるものではない。高額療養費の立替払い、予想外の出費に対応するためにも、手元の現金は重要だ。

長期的な資産形成を続ける

長期的な資産形成は、将来の医療や介護への備えにもつながる。ただし、まずは生活防衛資金を確保したうえで検討しよう。がんと診断された後のNISAの扱いについてはがんになったらNISAはどうする?で詳しく整理している。順序を間違えると、いざという時に投資資産を損切りせざるを得ない状況になる。

家計を整える

固定費の見直しで毎月の支出を抑えておくことが、いざという時の家計耐久力を上げる。がんになってから家計を削ろうとしても、精神的・体力的な余裕がない中での判断は難しい。平時に整えておくことに意味がある。

FPに相談すべきタイミング

以下のいずれかに当てはまる場合、FP相談を検討してほしい。

  • がんと診断され、治療費の全体像が見えない
  • 保険に入っているが、給付条件を把握していない
  • 休職・退職を検討しており、収入への影響が不安
  • 自営業・フリーランスで、収入補填の手段がない
  • 家族ががんになり、家計への影響を整理したい
  • 10年以上前の保険をそのまま使っている

私自身、膀胱腫瘍の手術を経験したFPです。診断を受けた直後、医療費より先に「仕事はどうなるのか」「保険は出るのか」という不安が頭をよぎりました。1,000件以上の相談経験に加え、患者としての実体験があるからこそ、お金の不安に寄り添った整理ができると思っています。FP相談は「保険を売るための場」ではない。お金の全体像を把握し、公的制度・保険・貯蓄をどう組み合わせるかを一緒に整理する場だ。

がんになってからでは遅い準備がある。一方で、診断後でも間に合う手続きもある。高額療養費の申請・傷病手当金の手続き・医療費控除の準備は、診断後でもできることだ。また住宅ローンを抱えている方はがんと住宅ローンの関係も合わせて確認してほしい。子どもの教育費が気になる方はがんと教育費も参考にしてほしい。がんで休職する場合の傷病手当金についてはがんと傷病手当金で整理している。上皮内がんと保険給付の関係は上皮内がんと給付金・払込免除を、がん既往歴がある方の保険加入についてはがんになったら生命保険は入れる?を参照してほしい。

「何がわからないかもわからない」という状態のまま一人で抱えないでほしい。

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かながわFP相談所

この記事を書いた人

かながわFP相談所

AFP2級FP技能士宅地建物取引士二種証券外務員

奈良県橿原市の独立系FP。外資系生保・乗合代理店・不動産会社での実務を経て独立。特定の保険会社・金融機関に属さない中立的な立場から、保険見直し・NISA・住宅ローン・ライフプランニングなど家計全般のご相談に対応。IFAとして資産運用アドバイスも行っています。

奈良・橿原でFPとして活動を始めて8年。2025年に二度の手術を経験し、病室で痛感したことがあります。人は心身が揺らいだ瞬間、どれほど知識があっても正しい判断ができなくなるという現実です。数字の正解より、迷った瞬間に隣で一緒に地図を広げる存在でありたい。

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