株の配当・売却益で医療保険料が上がる?「2028年から」は誤解|金融所得の反映をFPが解説

「株の配当や売却益が、医療保険料に反映されるようになる」——そういう話を聞いて、この記事にたどり着いた方が多いだろう。
ネット上では「2028年から始まる」という説明が広く出回っている。だが、法律と厚生労働省の資料を実際に確認すると、その時期は正確ではない。
先に結論を3つ書く。
- 法律はすでに成立している(2026年5月29日成立・6月5日公布/令和8年法律第31号)。ただし施行は「公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日」で、実際に保険料へ反映されるのは2030〜2031年度頃が目安になる
- 対象は後期高齢者医療制度。原則75歳以上で、一定の障害認定を受けた65〜74歳の方が対象になる場合もある。国民健康保険や介護保険は、今回の法律では制度化されていない
- NISAは対象外。厚生労働省が明記している
この記事では、何がどう変わるのか、そして今のうちに考えておける選択肢までを、一次資料にあたって整理する。
金融所得を保険料に反映する法律は、すでに成立している
2026年5月29日、健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)が成立し、6月5日に公布された。この中に、後期高齢者医療制度における金融所得の勘案が含まれている。
厚生労働省の法案資料によれば、この項目の施行期日は「公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日」とされている。同じ法律でも、高額療養費の考慮事項の明確化は令和8年8月1日、子育て世帯の保険料負担軽減は令和9年4月1日と、項目ごとに施行日が違う。金融所得の勘案は、その中で最も遅いグループに置かれている。
厚生労働省が示した想定スケジュールはこうだ。
- 法定調書データベースの構築と、市町村・広域連合のシステム改修に2年程度
- 金融機関へのオンライン提出義務化まで公布後4〜5年程度
- そこから所得の確定を経て保険料へ反映
2026年6月5日の公布から機械的に数えると、2030〜2031年度頃が一つの目安になる。大和総研も、2029〜2030年頃に発生した金融所得がその翌年度の保険料等に反映されるという見方を示している。
ただしこれはあくまで現時点の想定である。厚生労働省自身、システム改修などの事情でスケジュールが後ろ倒しになる可能性があると注記している。
「2028年から」はどこから来たのか
では、なぜ2028年という数字が広まっているのか。出所をたどると、2023年12月22日に閣議決定された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」に行き着く。
この改革工程では、取り組みが実施時期ごとに分類されている。金融所得の反映は、そのうち「2028年度までに実施について検討する取組」に挙げられていた。
2028年度は「検討」の期限であって、施行時期ではない。ここが取り違えられたまま広まったとみられる。
なお「骨太の方針2025が2028年度を明記した」という説明も見かけるが、骨太の方針2025の本文を確認したところ、金融所得に触れているのは脚注1か所のみで、時期の記載はなかった。文書中に「2028」は3回登場するが、いずれも技能五輪国際大会・貿易プラットフォームのデジタル化・出入国管理に関するもので、この件とは無関係である。
何が変わるのか——「申告するかどうか」で保険料が変わる現状
今回の改正が解消しようとしているのは、次の不公平だ。
上場株式の配当や売却益は、証券会社の特定口座(源泉徴収あり)で取引していれば、20.315%が源泉徴収された時点で課税関係が完結する。確定申告するかどうかは本人の選択に委ねられている。
ところが、後期高齢者医療の保険料や窓口負担割合は、市町村が把握している課税所得をもとに決まる。つまり——
- 確定申告した人:金融所得が課税所得に入る → 保険料も窓口負担も上がる
- 確定申告しなかった人:市町村が把握できない → 保険料にも窓口負担にも反映されない
同じ収入なのに、申告した人だけが重くなる。厚生労働省はこれを是正すべき不公平として問題提起してきた。
厚生労働省が示している具体例が分かりやすい。夫婦とも後期高齢者で、本人が年金230万円+上場株式の配当等50万円、配偶者が基礎年金83万円というケースだ。
| 窓口負担割合 | 保険料(年額) | |
|---|---|---|
| 確定申告する | 2割 | 169,978円(月14,165円) |
| 確定申告しない | 1割 | 118,928円(月9,911円) |
保険料の差が年51,050円。それに加えて窓口負担が1割か2割かという違いが乗る。医療費が本格的にかかる年代では、後者の影響のほうが大きくなることも十分ある。
改正後は、金融機関が法定調書を後期高齢者医療広域連合へオンライン提出する義務を負う。これにより、確定申告の有無にかかわらず金融所得が把握される。本人の手続きが増えるわけではない。
税金が増えるわけではない
ここは誤解されやすいので、はっきり書いておく。
税率は変わらない。20.315%は今も引かれている。増えるのは保険料と窓口負担だけだ。
- これまで確定申告していた人:何も変わらない(すでに両方に反映されている)
- 申告不要を選んでいた人:税金に加えて、保険料と窓口負担が乗る
つまり増税ではなく、申告しないことで結果的に避けられていた部分が塞がれる改正である。
手取りではなく、額面に対してかかる
もう一つ、見落とされやすい点がある。
保険料は、税引き後の手取りではなく、所得金額そのものに対してかかる。
後期高齢者医療の「賦課のもととなる所得金額」から差し引けるのは基礎控除43万円のみだ。医療費控除も、社会保険料控除も、生命保険料控除も、配偶者控除も適用されない。源泉徴収された所得税・住民税は必要経費ではないので、当然これも引けない。
奈良県の令和8年度の料率で計算してみる。均等割57,100円、所得割率10.63%(このほか子ども分として均等割1,400円・所得割0.25%)である。
配当を100万円受け取り、基礎控除は年金など他の所得で使い切っている場合——
| 内訳 | 金額 |
|---|---|
| 源泉徴収(所得税15.315%+住民税5%) | 203,150円 |
| 後期高齢者医療の所得割(10.63%+0.25%) | 108,800円 |
| 合計 | 約311,950円(約31.2%) |
手取り約79.7万円に対してではなく、100万円に対して保険料が計算される。大和総研も国民健康保険について「税の20.315%と合わせると30〜32%程度に及ぶ」と指摘しており、構造は同じだ。
どの金融所得が対象で、何が対象外か
対象になるもの、ならないものを整理しておく。
- 対象:上場株式等の配当・利子・譲渡所得(確定申告の有無にかかわらず)
- 対象外:NISA。厚生労働省の広報資料に「非課税のNISAは対象外です」と明記されている
- 対象外のまま:預貯金・一般公社債等の利子所得。源泉徴収で完結し、国も自治体も個人別に把握できていないため
- 今回は対象外:国民健康保険。「被用者保険とのバランス」等を理由に、まず後期高齢者医療制度から始めることとされた
ただし大和総研は、預貯金の利子についても把握する仕組みを整えるべきだと提言している。将来的に対象が広がる可能性は残っていると見ておいたほうがいい。
後期高齢者医療の保険料には上限がある——実は「効く人」は限られている
この改正は「富裕層への応能負担強化」と説明されることが多い。だが、実際に負担が増える層はもう少し狭い。
保険料には上限(賦課限度額)があるからだ。奈良県の令和8年度は年87万1千円(医療分85万円+子ども分2万1千円)である。
医療分の上限85万円に到達するのは、賦課のもととなる所得がおよそ790万円のあたりだ(均等割を差し引いて逆算した概算)。ここを超えると、金融所得がいくら増えても保険料はそれ以上増えない。
つまり、この改正で実際に負担が増えるのは所得800万円くらいまでの層である。上限に張り付くほどの資産家には、追加の負担は及ばない。「富裕層への負担強化」という説明と、実際に効く範囲にはズレがある。
対策①:NISAの非課税枠を使い切る
ここから、考えられる選択肢を整理する。
最も素直なのはNISAの活用だ。制度が正面から対象外と認めている以上、副作用がない。
これまでNISAの利点は「運用益に税金がかからない」ことだったが、今後は「保険料にも窓口負担にも響かない」という利点が加わる。同じ利益でも、特定口座で受け取るのとNISAで受け取るのとでは、手元に残るものが変わってくる。
ただし非課税枠には上限がある。枠を超える資産をどう置くかは、別に考える必要がある。
対策②:一時払い保険——ただし「出口の設計」で結果が正反対になる
もう一つ、よく挙げられるのが一時払いの生命保険だ。ただしここは設計を間違えると意味がなくなるので、丁寧に見ておきたい。
ポイントは商品名ではなく、お金がどう出てくるかである。
| お金の出方 | 所得の区分 | 算定に乗る額 | 頻度 |
|---|---|---|---|
| 据え置く(解約しない) | 所得が発生しない | ゼロ | — |
| 一括で解約する | 一時所得 | (差益−50万円)×1/2 | 解約した年に1回 |
| 定期支払金・年金で受け取る | 雑所得 | 利益部分の全額 | 毎年 |
| 死亡保険金として渡す | 相続税 | ゼロ | — |
据え置いている間は所得が発生しないため、毎年の保険料にも窓口負担にも影響しない。解約した場合も、一時所得は50万円の特別控除を引いたうえで2分の1が総所得金額に算入されるため、同じ利益額でも算定に乗る額は小さくなる。しかもその年1回だけだ。
ただし「一括で解約すれば必ず有利」とは言えない。特別控除50万円はその年の一時所得全体に対する枠なので、ほかに一時所得があれば合算される。さらに、契約者・被保険者・受取人の関係によって課税される税目そのものが変わることもある。
一方で、定期支払金や年金の形で毎年受け取る設計にすると雑所得になる。雑所得には1/2も50万円控除もなく、私的年金なので公的年金等控除も使えない。これでは配当を受け取り続けるのと構造が変わらない。
「一時払い保険なら安心」という説明を見かけるが、正確ではない。効くのは据え置くか、一括で解約する場合に限られる。
もちろん注意点もある。早期に解約すれば元本割れの可能性があること、予定利率が固定のためインフレに弱いこと、契約できる年齢に上限があること。保険料を抑えることだけを目的に資産配分を歪めるのは本末転倒である。
保険は「認知症でも家族が動かせる」数少ない資産でもある
もう一点、見落とされがちな論点を挙げておく。
判断能力が低下すると、預貯金の引き出しや証券の売却について、本人以外の家族が自由に手続きできるとは限らなくなる。
ただし「認知症になったら口座が一律に凍結される」という制度があるわけではない。全国銀行協会は2021年に「金融取引の代理等に関する考え方」を公表しており、生活費や入院費、介護施設の費用など本人の利益が明らかな場合の親族による代理取引について、各行に柔軟な対応を促している。
とはいえ、対応の仕方も必要書類も金融機関ごとに異なる。あてにできるかどうかは、そのときになってみないと分からない。
ところが生命保険には、あらかじめ登録しておけば家族が手続きできる仕組みがある。名称も条件も会社によって異なる。
- 指定代理請求特約:保険金・給付金の請求を代理できる。解約はできない
- 契約者代理制度・保険契約者代理特約:契約者が意思表示できないとき、登録した家族が解約や減額まで代理できる
- 家族情報登録制度:契約内容の照会のみ。手続きはできない
各社の対応も一様ではない。ある会社は2025年1月の規約改定ではじめて解約を代理対象に加えた。別の会社は診断書の提出を求めている。また別の会社は「法定代理人が登記されていないこと」を条件にしている。
いずれにせよ、これは元気なうちにしか登録できない。認知症になってからでは間に合わないという点で、認知症による資産凍結への備えとまったく同じ構造にある。
登録するときに必ず確認したいこと
ただし、制度を登録して安心してはいけない。確認すべきなのは「解約したお金がどの口座に振り込まれるか」である。
解約金の送金先を契約者本人名義の口座に限っている会社もある。本人の口座が動かせないから家族が代理で解約するのに、その本人名義の口座にしか送金されないのでは、意味が薄れてしまう。代理人の口座へ送金する取扱いをしている会社もあると聞くが、会社によって扱いが異なるため、登録の時点で確認しておく必要がある。
そして、保険側の手当てと、銀行口座側の手当て(代理人届など)はセットで考えたほうがいい。片方だけでは、いざというときに手が届かない場面が出てくる。
それでも、今すぐ動く必要はない
最後に、いちばん大事なことを書いておく。
冒頭で確認したとおり、実際に保険料へ反映されるのは2030年前後の見込みだ。今あわてて資産配分を組み替える理由はない。
むしろ、慌てて動くことのほうがリスクが大きい。手数料を払って商品を乗り換える、元本割れする時期に解約する、流動性を失う——制度が始まる前にこうした損失を確定させてしまえば、本末転倒である。
今の段階でできるのは、次の3つで十分だと考える。
- NISAの枠を計画的に使う(そもそも制度の対象外であり、これは今日からできる)
- 75歳が近い方は、資産の置き場所を一度点検しておく
- 判断能力があるうちに、家族が動かせる状態を整えておく
制度の詳細は今後の政令で定まる。動くのはその輪郭が見えてからで間に合う。
まとめ
- 法律は2026年5月29日に成立済み。ただし施行は公布後5年以内で、反映は2030年前後の見込み
- 「2028年から」は、改革工程の「2028年度までに実施について検討する」が取り違えられたもの
- 対象は75歳以上の後期高齢者医療制度のみ。上場株式等の配当・利子・譲渡所得が対象で、NISAと預貯金の利子は対象外
- 税率は変わらない。増えるのは保険料と窓口負担
- 保険料は手取りではなく額面にかかる。税と合わせると3割前後の負担になる
- 賦課限度額があるため、実際に効くのは所得800万円くらいまでの層
- 選択肢はNISAの活用と一時払い保険。ただし後者は据置か一括解約でないと効かない
- 今すぐ動く必要はない
参考にした公式情報
- 健康保険法等の一部を改正する法律案について|第211回社会保障審議会医療保険部会 資料1(PDF)
- 後期高齢者医療制度における金融所得の公平な反映|厚生労働省(PDF)
- 医療保険制度改正法が成立しました|厚生労働省
- 経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太の方針2025)|内閣府(PDF)
- 確定申告しない株式譲渡所得等の後期高齢者医療制度の保険料等への反映|大和総研(PDF)
- よくある質問【後期高齢者医療保険料】|奈良市
- 指定代理請求制度って、どんな制度なの?|生命保険文化センター
- 金融取引の代理等に関する考え方|全国銀行協会
- 健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)の概要|厚生労働省(PDF)
「自分の場合はどうなるのか」を整理したい方へ
金融資産の置き場所は、税金だけでなく、社会保険料・窓口負担・相続まで含めて考えると答えが変わることがある。かながわFP相談所では、ご家族全体の状況をふまえた資産の持ち方についてご相談を承っている。
※当方はファイナンシャル・プランナーであり、確定申告書の作成・提出の代行(税理士の業務)および保険料の賦課・徴収に関する不服申立て等の手続き代行(社会保険労務士の業務)は行っていない。個別の税額・保険料額の判定については、税務署・お住まいの市町村・税理士等へご確認いただきたい。
※本記事は2026年8月10日時点で公表されている法令・厚生労働省・内閣府の資料等にもとづいて作成している。施行期日は政令で定められるため、今後変更される可能性がある。保険料率・賦課限度額は市町村および広域連合により異なり、年度ごとに改定される。実際の保険料・窓口負担割合については、お住まいの市町村の最新情報を必ずご確認いただきたい。

この記事を書いた人
かながわFP相談所
AFP2級FP技能士宅地建物取引士二種証券外務員
奈良県橿原市の独立系FP。外資系生保・乗合代理店・不動産会社での実務を経て独立。特定の保険会社・金融機関に属さない中立的な立場から、保険見直し・NISA・住宅ローン・ライフプランニングなど家計全般のご相談に対応。IFAとして資産運用アドバイスも行っています。
奈良・橿原でFPとして活動を始めて8年。2025年に二度の手術を経験し、病室で痛感したことがあります。人は心身が揺らいだ瞬間、どれほど知識があっても正しい判断ができなくなるという現実です。数字の正解より、迷った瞬間に隣で一緒に地図を広げる存在でありたい。
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