ゴジラの被害に火災保険は下りる?地震・津波・自衛隊で結論が変わる理由をFPが検証

ゴジラが街を歩けば、ビルが倒れ、家が潰れ、火の手が上がる。映画を観ているあいだは「うわあ」で済むが、FPという仕事をしていると、エンドロールが流れ始めたころに別のことを考えてしまう。
あの街の人たちの火災保険は、下りるのだろうか。
先に結論を言ってしまうと、下りる場合と、下りない場合がある。分かれ目はゴジラそのものではなく、「どう壊れたか」だ。踏み潰されたなら出る。熱線で燃えても出る。ところが、ゴジラの上陸で地震や津波が起きて、それで壊れた家には、通常の火災保険の損害保険金は出ない。
そして多くの人が「これはさすがに免責だろう」と思うであろう自衛隊の攻撃についても、条文を追っていくと話はそう単純ではない。今回はこの構造を、実際の保険約款と法律の条文で検証してみる。
火災保険が守ってくれる「壊れ方」は決まっている
まず前提として、火災保険は「建物が壊れたら何でも出る保険」ではない。日本損害保険協会の解説では、補償の対象になる事故はこう列挙されている。
火災、落雷、破裂・爆発、風災・雹(ひょう)災・雪災、水災、外部からの飛来物、水漏れ、盗難など
(出典:日本損害保険協会「火災保険」)
つまり、あらかじめ決められた事故の類型に当てはまるかどうかで判断される。ゴジラという固有名詞はもちろん約款のどこにも出てこない。だから我々がやるべきことは、ゴジラの被害をこの類型に当てはめ直す作業になる。
ゴジラに踏み潰されたら「外部からの物体の衝突・接触」と考えられる
ゴジラの基本的な破壊方法は、歩くことだ。体重数万トンの生き物が街を通れば、建物は踏み潰され、あるいは尾が当たって倒れる。
これは約款上、どう扱われるか。実際の条文を見てみる。
建物の外部からの物体の落下、飛来、衝突、接触もしくは倒壊または建物内部での車両もしくはその積載物の衝突もしくは接触によって保険の対象が損害を受けた場合。ただし、雨、雪、あられ、砂塵、粉塵、煤煙その他これらに類する物の落下もしくは飛来、土砂崩れまたは風災、雹災、雪災もしくは水災の事故による損害を除きます。
(損保ジャパン「個人用火災総合保険」普通保険約款より)
注目してほしいのは「衝突、接触もしくは倒壊」という並びだ。飛んでくるものだけでなく、ぶつかること、触れること、倒れてくることまで含まれている。ゴジラの身体や尾が建物に衝突・接触して損害が生じたケースは、この補償に該当すると考えるのが自然である。
そして除外されているのは、雨や雪や砂塵といった自然現象と、土砂崩れ、それに風災・水災など他の類型で扱うものだけだ。「生き物がぶつかってきた場合」は除外されていない。
熱線で燃えたら「火災」になる
ゴジラといえば放射熱線である。これで街が燃える。
建物が熱線によって燃焼したのであれば、まず問題になるのは「火災」である。これは火災保険が基本的に補償する事故類型そのものだ。
したがって、熱線によって建物に火災が発生したという設定なら、火災による損害として考えることができる。
一方、熱線による破壊が「破裂・爆発」に当たるかどうかは、今回確認した資料だけでは判断できない。ここまで広げて考える必要もないだろう。
ところが、地震と津波を起こした瞬間に話が終わる
ここからが本題だ。
体重数万トンの生物が上陸すれば、地面は揺れる。海から上がってくれば、水が押し寄せる。映画でもおなじみの光景だが、保険の世界ではこれが決定的な意味を持つ。
地震、噴火、またはこれらによる津波を原因とする損害(火災・損壊・埋没・流失)については、火災保険では補償されません
(出典:日本損害保険協会「火災保険」)
約款側の書きぶりはさらに厳しい。
地震・噴火またはこれらによる津波(以下「地震等」といいます。)を原因とする損壊・埋没・流失による損害だけでなく、地震等による火災(延焼・拡大も含みます。)損害はもちろん、火元の発生原因を問わず地震等で延焼・拡大した損害についても損害保険金がお支払いできません
(損保ジャパン「個人用火災総合保険」より)
つまり、同じゴジラが原因でも——
- 踏み潰された家 → 出る
- 熱線で燃えた家 → 出る
- ゴジラの上陸で起きた地震で潰れた家 → 通常の損害保険金は出ない
- ゴジラが起こした津波で流された家 → 通常の損害保険金は出ない
隣同士の家で、片方は保険金が出て、片方は出ない。そういうことが普通に起こる。地震等による損害を本格的に補償するには、地震保険が必要になる。
地震保険に入っていなくても出るお金がある
ここで一つ、知られていない救済がある。地震火災費用保険金だ。
これは地震等が原因の火災について、地震保険とは別枠で火災保険から支払われるもので、約款にはこう書かれている。
「地震火災費用保険金」のお支払いについては、「地震保険」のご契約の有無とは関係ありません
(損保ジャパン「個人用火災総合保険」より)
支払いの条件と金額は次のとおりだ。
- 地震等を直接または間接の原因とする火災であること
- 建物が半焼以上であること(主要構造部の火災損害額が協定再調達価額の20%以上、または焼失した床面積が延べ床面積の20%以上)
- 支払額は 保険金額 × 5%
- 72時間以内に生じた2以上の地震等は、まとめて1回の事故とみなす
ただし注意点がある。地震等で建物が滅失した後に火災が起きた場合は対象外だ。倒れてから燃えたのでは出ない。そして5%という割合を見ればわかるとおり、これは家を建て直せる金額ではない。あくまで当座の費用である。
補償の考え方そのものは、火災保険だけじゃだめ?地震・噴火への備えで詳しく整理している。
本当の分かれ目は自衛隊——だが、戦争免責に当然には該当しない
ゴジラ映画には必ず自衛隊が出てくる。戦車が並び、ミサイルが飛び、街はさらに壊れる。
ここで保険をかじった人ほど不安になる。戦争は免責のはずだ、と。実際、約款にはこう書かれている。
次の⑴から⑶までのいずれかに該当する事由によって生じた損害または費用に対しては、保険金をお支払いできません。
⑴ 戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱その他これらに類似の事変または暴動
⑵ 地震もしくは噴火またはこれらによる津波
⑶ 核燃料物質…
(損保ジャパン「個人用火災総合保険」普通保険約款より)
読み飛ばさないでほしいのは「外国の武力行使」という限定だ。
では、自衛隊がゴジラと戦うことは法律上どう位置づけられるのか。自衛隊法を引く。
(防衛出動)第七十六条 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は……
二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し……
(出典:e-Gov法令検索「自衛隊法」)
防衛出動の要件は、どちらも国家による武力攻撃を前提にしている。ゴジラが外国や他国による武力攻撃ではないという設定なら、防衛出動の典型的な要件には該当しないことになる。
ではどうなるか。自衛隊法には、もう一つの出動根拠がある。
(災害派遣)第八十三条 都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる。
(出典:e-Gov法令検索「自衛隊法」)
「天災地変その他の災害」に際して、人命又は財産の保護のため必要がある場合の災害派遣である。
ただし、ゴジラそのものが「天災地変」に当たると法律に書かれているわけではない。したがってここは、条文から直接導かれる結論ではなく、ゴジラを現実の災害と同様に扱うという前提に立った解釈である。
それでも、ゴジラが外国や他国による武力攻撃ではないという設定なら、76条の「防衛出動」よりも、83条の「災害派遣」として考えるほうが自然だろう。この設定なら、法律上は「敵」より「災害」として扱うほうが近い。
もっとも、ここで一つ問題が残る。
約款は「外国の武力行使」だけでなく、「革命、政権奪取、内乱、武装反乱その他これらに類似の事変または暴動」も免責としている。したがって、「ゴジラは外国ではないから絶対に免責ではない」とまでは言えない。
ただ、今回の設定では、ゴジラは国家でも武装組織でもなく、政権奪取や内乱、武装反乱を目的としているわけでもない。少なくとも、約款に列挙された事由と同じ性質の出来事と評価する根拠は乏しい。
そのため、自衛隊がゴジラを攻撃したという事実だけで、直ちに戦争免責が発動するとはいえない。
ゴジラが法律上「動物」かどうかは、保険では問題にならない
ここまで読んで、こう思った人がいるかもしれない。「そもそもゴジラは法律上の動物なのか。動物でないなら扱いが変わるのでは」と。
もっともな疑問だ。鳥獣保護管理法が対象とする「鳥獣」は鳥類と哺乳類であり、動物愛護管理法の対象は哺乳類・鳥類・爬虫類である。ゴジラがそのどれかに当てはまるのかは、真面目に考えると難しい。
ところが、火災保険の約款を読むかぎり、この論点は出番がない。
約款で「動物」という言葉が出てくるのは、加害者としてではなく守る対象としてだった。
家財に動物が含まれている場合のその動物の損害については、その動物を収容する保険証券記載の建物または付属建物内で損害を受けたため、損害発生後7日以内に死亡したときにのみ保険金をお支払いします
(損保ジャパン「個人用火災総合保険」普通保険約款より)
つまり約款が想定している「動物」はペットのことであり、動物が加害者になった場合の規定は置かれていない。先ほどの「建物の外部からの物体の落下、飛来、衝突、接触もしくは倒壊」に当てはまるかどうかが問われるだけで、その物体が生き物かどうかは条文上の分岐になっていない。
約款の文言だけを見る限り、鳥のような生き物が建物に衝突するケースも、「物体」の解釈として検討することになる。鳥が法律上どう分類されるかを先に調べる必要はない。ゴジラも構造としては同じ話になる。
もっとも、商品によっては動物や害虫による損害を別に扱っているものもある。自分の契約がどうなっているかは、証券ではなく約款を確認してほしい。
まとめ:ゴジラは「敵」より「災害」に近い
整理する。
- 踏み潰し・接触・倒壊 → 外部からの物体の衝突等に該当すると考えられる
- 熱線による火災 → 火災として出る
- ゴジラが起こした地震・津波 → 通常の損害保険金は対象外。地震保険が必要
- 地震等が原因の火災で半焼以上 → 地震火災費用保険金(保険金額の5%)が地震保険なしでも出る
- 自衛隊の攻撃 → 直ちに戦争免責に該当するとはいえず、出る余地がある
いちばん怖いのは、ゴジラでも自衛隊でもなく、ゴジラが引き起こす地震と津波だった。ここだけが、通常の損害保険金の外にある。
そしてこれは、怪獣がいない現実でもそのまま当てはまる。火災保険に入っているから安心、というのは半分しか正しくない。地震・噴火・津波が原因なら、火災保険は動かない。自分の契約に地震保険が付いているかどうかは、一度確認しておく価値がある。
怪獣は来ないかもしれないが、地震は来る。
参考にした情報
- 日本損害保険協会「火災保険」
- e-Gov法令検索「自衛隊法」
- 損保ジャパン「個人用火災総合保険」普通保険約款・ご契約のしおり
※本記事では、条文・約款の文言そのもの(引用部分)と、それをゴジラという架空の設定に当てはめた解釈とを区別して書いている。後者は筆者の考え方であり、実際の支払可否は個別の事案ごとに保険会社が判断する。また約款の文言は保険会社・商品・改定時期によって異なる。本記事は特定商品の約款を例として引用したものであり、ご自身の契約内容は必ずお手元の約款で確認してほしい。
この記事を書いたFPに直接相談できます
※本記事は『ゴジラ』シリーズの設定に基づくフィクション考察である。作品世界を尊重しつつ、現実の法制度と保険約款をFPの立場から分析している。商用利用・批判意図はない。

この記事を書いた人
かながわFP相談所
AFP2級FP技能士宅地建物取引士二種証券外務員
奈良県橿原市の独立系FP。外資系生保・乗合代理店・不動産会社での実務を経て独立。特定の保険会社・金融機関に属さない中立的な立場から、保険見直し・NISA・住宅ローン・ライフプランニングなど家計全般のご相談に対応。IFAとして資産運用アドバイスも行っています。
奈良・橿原でFPとして活動を始めて8年。2025年に二度の手術を経験し、病室で痛感したことがあります。人は心身が揺らいだ瞬間、どれほど知識があっても正しい判断ができなくなるという現実です。数字の正解より、迷った瞬間に隣で一緒に地図を広げる存在でありたい。
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