愛媛県12億円特殊詐欺から学ぶ、高齢の親の資産を守る方法

こんにちは。奈良県橿原市の独立系FP、かながわFP相談所の金川です。
愛媛県で、80代女性が約12億円をだまし取られるという特殊詐欺事件が報道されました(時事通信 2025年4月6日)。
「どうしてそんな大金を…」と思われた方も多いと思います。
ただ、FPとしてこのニュースを見たときに感じたのは、
これは単なる詐欺の話ではない
ということです。
2026年上半期、被害は過去最悪。しかも「主役」が変わりました
この事件は2025年の報道ですが、状況はよくなっていません。むしろ悪化しています。
2026年7月30日に警察庁が公表した集計(暫定値)によると、2026年上半期(1〜6月)の特殊詐欺の被害額は1,816.2億円で、前年同期より618.8億円(+51.7%)増えました。認知件数は22,031件(+18.3%)。1日あたりの被害額は10.0億円、既遂1件あたりでは840.0万円にのぼります。
ただ、数字よりも大事なのは中身が変わったことです。
| 手口 | 被害額 | 前年同期比 | 全体に占める割合 |
|---|---|---|---|
| SNS型投資詐欺 | 797.9億円 | +126.0% | 43.9% |
| ニセ警察詐欺 | 507.9億円 | +27.3% | 28.0% |
| SNS型ロマンス詐欺 | 246.6億円 | +2.6% | 13.6% |
| 架空料金請求詐欺 | 74.6億円 | +9.0% | 4.1% |
| オレオレ詐欺 | 68.9億円 | +8.7% | 3.8% |
| 還付金詐欺 | 33.1億円 | -3.4% | 1.8% |
出典:警察庁「令和8年上半期における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」(2026年7月30日公表)。なお警察庁は令和8年から「ニセ警察詐欺」を独立した手口として位置付け、SNS型投資・ロマンス詐欺を特殊詐欺の一手口に整理しました。上の前年同期比は、前年も同じ整理で集計し直したうえでの比較です。
「オレオレ詐欺」は、もはや主役ではありません。被害額の3.8%にすぎず、代わりにSNS型投資詐欺とニセ警察詐欺の2つで、被害額の7割超を占めています。愛媛の事件で使われた「警察・検事を名乗る」手口は、いまや被害額で2番目に大きい類型です。
狙われているのは「親」だけではありません
ここが、今回いちばんお伝えしたいところです。
特殊詐欺というと「高齢の親が狙われる話」と受け取られがちです。実際、65歳以上の被害額は817.8億円で全体の46.0%を占めます。
ただし年代別に被害額を並べると、いちばん多いのは60代でした。
年代別の被害額(2026年上半期・法人被害を除く)
- 60代:514.6億円(最多)
- 50代:379.2億円
- 70代:365.3億円
- 40代:194.5億円
- 80代以上:193.4億円
80代以上より、50代・60代のほうが被害額は大きいのです。とくにSNS型投資詐欺は50代と60代で被害額の59.5%を占めています。働いていて、判断力もあり、ある程度まとまった資産を持っている世代が、いま最も狙われています。
つまりこの記事は「親を守るための話」であると同時に、この記事を読んでいるあなた自身の話でもあるということです。
もうひとつ気になる数字があります。詐欺の予兆とみられる不審な電話は119,778件で、前年同期より27.1%減りました。減ったのは良いことのようですが、実態は入口が電話からSNSへ移ったということです。「変な電話がかかってきたら気をつける」という従来の見張り方だけでは、もう間に合わなくなっています。実際、送金の手段も振込型1,033.4億円のうち72.2%がインターネットバンキング経由で、暗号資産で送らせる型も409.6億円(+74.6%)に増えています。窓口で行員に止めてもらう、という水際は効きにくくなりました。
なぜ12億円も送金できてしまったのか
手口自体は、よくある特殊詐欺です。
- 保険証の不正利用
- 警察や検事を名乗る
- 資産調査を理由に送金を指示
ここだけ見ると、「気をつけましょう」で終わる話です。
でも本質はそこではありません。
👉資産が「一人で動かせる状態」だったこと
これが最大のポイントです。
なお、今回のような手口は投資詐欺に限ったものではありません。
暗号資産を使った詐欺でも、同じように「信用させてから搾取する」構造が使われています。
資産は「増やす」より「守る」が難しい
多くの方は資産運用に関心があります。
NISA、投資信託、利回り。
もちろん大切です。
ただ、今回のようなケースを見ると分かる通り、
資産は一瞬で失われます。
時間をかけて積み上げても、守りがなければ意味がありません。
今回の事件から見える3つのリスク
① 一人で資産を動かせる状態
誰にも確認せずに大きな送金ができる環境は、自由である一方で最大のリスクです。
② 「権威」に対する思考停止
警察・検事という言葉が出た瞬間に判断力が鈍る。これは誰にでも起こり得ます。
③ 家族との情報共有不足
お金の話をしていない家庭ほど、異変に気づくのが遅れます。
では、家族に何が共有されていれば違ったか
今回のニュースで強く感じたのは、家族間でお金の情報が共有されていないリスクです。
どこにどれくらい資産があるのか。
何かあったとき、誰に相談するのか。
これが共有されていれば、少なくとも異変に気づくスピードは変わります。
今回の事件は昨年10月から今年2月にかけて、8回にわたる送金が続きました。
家族間に日常的な情報共有があれば、早期に気づける可能性はあったはずです。
エンディングノートは「死ぬため」ではない
エンディングノートというと、まだ早い、縁起でもないと思われがちです。
でも本来は、家族を守るためのものです。
難しく考える必要はありません。
まずは、通帳がどこにあるかを家族の誰か一人に伝える。
それだけでも、大きな違いになります。
日本は「お金の話」をしなさすぎる
相談を受けていて感じるのは、家族間でお金の話をしていないケースの多さです。
資産の話はタブー。お金の話はしにくい。
この空気が、リスクを大きくしています。
本来は逆で、お金の話こそ共有すべき情報です。
「一人で動かせる状態」は、二方向のリスクです
この記事の前半で、最大のポイントは資産が「一人で動かせる状態」だったことだと書きました。
ここには続きがあります。「一人でしか動かせない状態」は、詐欺では奪われ、認知症では止まります。
本人の判断能力が低下したと金融機関が判断すると、口座は凍結されます。亡くなる前でも止まります。そうなると、本人のお金なのに、生活費も介護費用も引き出せなくなります。詐欺は「奪われる」、認知症は「止まる」。方向は逆ですが、原因はどちらも同じ「一人しか動かせない設計」です。
対策は「なる前」にしか打てません
銀行の代理人届、家族信託、任意後見、日常的な見守り──打てる手はいくつもありますが、どれも本人に判断能力があるうちにしか使えません。具体的な選択肢と、それぞれの費用・手間の違いは認知症で口座が凍結される「資産凍結」とは?対策は”なる前”しかない理由で詳しく整理しています。あわせて、認知症のお金の相談は誰にする?では、FP・司法書士・弁護士・税理士の役割の違いをまとめました。
詐欺への備えと、認知症への備えは、別々の話ではありません。「そのお金は、本人以外の誰かが状況を把握しているか」という一点で、両方に効きます。
FPとして伝えたいこと
資産形成は「増やす」ことばかり注目されがちです。
でも本当に重要なのは、
👉どう守るか
です。
どこに置くか。誰が動かせるか。どういうルールにするか。
ここまで設計して初めて、資産は機能します。
完璧である必要はありません。
「何かあったら誰に相談するか」
これを決めておくだけでも、大きく変わります。
今回のニュースをきっかけに、
一度、ご家族でお金の話をしてみてください。
それだけでも、十分価値があります。
詐欺の手口は一見バラバラに見えても、構造は驚くほど似ています。
投資詐欺の具体的な流れや心理トリックについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
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この記事を書いた人
かながわFP相談所
AFP2級FP技能士宅地建物取引士二種証券外務員
奈良県橿原市の独立系FP。外資系生保・乗合代理店・不動産会社での実務を経て独立。特定の保険会社・金融機関に属さない中立的な立場から、保険見直し・NISA・住宅ローン・ライフプランニングなど家計全般のご相談に対応。IFAとして資産運用アドバイスも行っています。
奈良・橿原でFPとして活動を始めて8年。2025年に二度の手術を経験し、病室で痛感したことがあります。人は心身が揺らいだ瞬間、どれほど知識があっても正しい判断ができなくなるという現実です。数字の正解より、迷った瞬間に隣で一緒に地図を広げる存在でありたい。
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