ガス人間|養子縁組は何日でできる?「お父さんになって」が叶わなかった理由をFPが解説

ガス人間と養子縁組・失踪宣告の制度をFPが解説するアイキャッチ。未成年の養子縁組は家庭裁判所の許可に3〜6か月、失踪宣告は7年(危難の場合1年)、取消後もすべてが元通りにはならないこと、遺体がないと手続きが進まないことを示している

※ この記事はNetflixシリーズ「ガス人間」の内容に触れています。物語の核心に関わる場面を含むため、未視聴の方はご注意ください。

この記事の結論

「お父さんになって欲しい」という願いは、その数日後の事故で永久に叶わなくなった。だが実のところ、事故がなくても、数日では叶わなかった。未成年を養子にするには家庭裁判所の許可が必要で、申立てから3〜6か月かかるからだ。制度は時間を要求する。そして時間は待ってくれない。

「願いをひとつ言ってください」

生前のレンが、幼い京子によく言っていた言葉だ。ラジオのDJのような口ぶりで、二人がふざけ合うときの決まり文句だった。

そのとき京子が口にした願いが、「お父さんになって欲しい」である。

その数日後、レンは事故に遭う。身体は散り散りのガスとなって吹き飛び、以後27年、彼はどこにもいなくなった。

願いは、叶えられないまま宙に浮いた。


そして27年後。再び姿を現した彼を、京子が見つける。だが戻ってきた彼に、人間だった頃の意思はない。

この記事では、この「叶わなかった願い」を、現実の制度に置き換えて検証する。親子になるには何が必要で、どれだけの時間がかかるのか。そして27年という不在は、法律上なにを確定させてしまうのか。

事故がなくても、数日では親子になれなかった

まず、この点から確かめたい。

もしレンが事故に遭わず、京子の願いを叶えようとしたら、どうなっていたか。

答えは「数日では、どうやっても間に合わなかった」である。

未成年を養子にするには、家庭裁判所の許可が要る

養子縁組は、当事者が合意して届出をすれば成立する——のが原則だ。しかし未成年者を養子にする場合は、市区町村への届出の前に、家庭裁判所の許可を得なければならない(出典:法務省「養子縁組について知ろう」)。

例外は、自分または配偶者の直系卑属(実の子や孫)を養子にする場合だけ。血のつながりのない子を迎えるなら、許可は必須である。

さらに15歳未満の子を養子にするには、法定代理人(実の親など)の承諾が要る。

つまり、こういうことになる。

幼い京子が「お父さんになって欲しい」と願っても、それだけでは何も動かない。制度が求めているのは、養親となる大人の意思と、法定代理人の承諾と、家庭裁判所の許可である。子ども本人の願いは、法的な意思としてカウントされない。

なぜ3〜6か月もかかるのか

家庭裁判所に許可を申し立てると、家庭裁判所調査官による調査と、裁判官による審問が行われる。その結果をもとに、裁判官が許可するかどうかを判断する(裁判所「養子縁組許可」)。

申立てから許可が出るまで、おおよそ3〜6か月とされる。

時間がかかるのは、手続きが煩雑だからではない。親子関係は一度結ぶと取り返しがつかないから、慎重に確かめているのである。この時間は、子どもを守るためにある。

だからこそ、皮肉でもある。子を守るための時間が、間に合わなかった理由になってしまった。

参考:普通養子縁組と特別養子縁組

ちなみに、養子縁組には2種類ある。レンのような独身者が選べるのは、実質的に前者だけだ。

項目普通養子縁組特別養子縁組
成立のしかた合意+届出
(未成年は家裁の許可が必要)
家庭裁判所の審判
実の親との関係続く(戸籍に実親と養親が並ぶ)終了する
独身者でも可能か可能原則、夫婦共同でなければ不可
子の年齢制限なし(養親より年下であること)原則15歳未満

出典:法務省「養子縁組について知ろう」法務省民事局「養子縁組とは(未成年者を養子とする場合についてのQ&A)」をもとに作成

27年という時間が、法律上たしかにしたこと

さて、事故は起きてしまった。レンは27年、どこにもいなくなる。

このとき法律の側では、何が起きうるのか。

生死が7年わからなければ、人は「死んだこと」にできる

日本の民法には失踪宣告という制度がある。生死不明の人について、家庭裁判所が死亡とみなす手続きだ。

種類必要な期間対象となる状況
普通失踪7年生死不明の状態が続いている
特別失踪
(危難失踪)
危難が去った後
1年
戦争・船の沈没・震災など、死亡の原因となる危難に遭遇した

根拠:民法第30条(e-Gov法令検索・民法

利害関係人が家庭裁判所に申し立て、宣告が出れば、その人は法律上「死亡した」ものとみなされる。相続が開始し、生命保険の死亡保険金も請求できるようになる。

レンの不在は27年。普通失踪の7年をはるかに超えている。

つまり誰かが申し立ててさえいれば、レンは20年も前に、法律上は死んだことになっていた

なぜ遺体がないと、何も進まないのか

そもそも人が亡くなったとき、手続きは死亡診断書または死体検案書から始まる。これがないと死亡届が出せず、戸籍が動かない。戸籍が動かなければ、相続は開始せず、保険金も下りず、口座は凍結されたままになる。

作中のガス人間は、通常の殺害では被害者の体内に侵入し、内部から破壊したあと、ガスだけが出てきて帰る。遺体は残る。だから被害者側の手続きは進む。

だが最終盤、彼は出てこなかった。京子とともに姿を消し、その後の行方は描かれていない。遺体のない死は、法律上まだ「死」ではない。

なお、遺体が確認できなくても死亡が確実な場合には、官公署の報告にもとづいて戸籍に死亡を記載する認定死亡という制度もある。東日本大震災でも使われた仕組みだ。

では、戻ってきたらどうなるのか

ここが、この物語のいちばん奇妙な論点になる。

27年ぶりに、彼は戻ってきた。もし失踪宣告が出ていたら、どうなるのか。

民法第32条は、失踪者が生きていたと証明されたとき、家庭裁判所は失踪宣告を取り消さなければならないと定めている。

ただし、時計は完全には巻き戻らない。

  • 取消し前に善意でされた行為は、効力に影響を受けない(善意=失踪宣告が事実と違うと知らなかったこと。落ち度がなかったかどうかは問わない)
  • 失踪宣告によって財産を得た人——相続人、受遺者、生命保険の受取人など——が返す義務を負うのは、現に利益を受けている限度だけ

つまり、相続で受け取った財産をすでに使ってしまっていれば、その分は戻らない。すでに売却された不動産が買主から取り上げられることもない。

27年という時間は、法律上いろいろなものを確定させてしまう。本人が戻ってきても、全部が元どおりになるわけではない。

ここまでのまとめ

  • 事故がなくても、数日では親子になれなかった
  • 未成年を養子にするには家庭裁判所の許可が要り、3〜6か月かかる
  • 生死不明が7年続けば失踪宣告ができる(危難によるものなら1年)
  • 宣告が取り消されても、全部が元どおりになるわけではない

現実の話:手続きには、これだけ時間がかかる

フィクションから離れて、現実の話をしたい。

お金や家族に関わる手続きは、思っている以上に時間を要求する。

手続きかかる時間の目安
未成年者との養子縁組(家裁の許可)3〜6か月
失踪宣告(普通失踪)生死不明から7年+申立ての審理
失踪宣告(危難失踪)危難が去ってから1年+申立ての審理
成年後見の申立て数か月(鑑定が必要な場合はさらに)

そして共通しているのは、どれも「必要になってから始めても、間に合わないことがある」という点である。

FPとして伝えたいこと

この物語は、願いが叶わなかった話だ。

事故が理由に見える。だが実際は、願いが口にされた時点で、制度上まだ何も始まっていなかった。申し立ててもいない、承諾も取っていない、届出も出していない。数日という時間は、制度にとってはゼロに等しい。

これは、フィクションの中だけの話ではない。

  • 事実婚の相手の子を、長く育てている
  • 親族ではない子を引き取って、家族として暮らしている
  • 「そのうち手続きしよう」と思ったまま、何年も経っている

どれだけ一緒に過ごしても、届出がなければ法的な親子関係は存在しない。相続権もなければ、扶養義務もない。医療の同意もできない。

そして手続きは、いつでも始められるわけではない。

同じ構造の話を、当相談所では別の形でも書いている。認知症で口座が凍結される「資産凍結」だ。あちらは「生きているのに意思が確認できない」、こちらは「死んだかどうか確認できない」。入口は正反対なのに、家族が直面する事態は同じ——財産が動かせず、手続きが止まる。
そしてどちらも、対策ができるのは「そうなる前」だけである。

なお、養子縁組や失踪宣告そのものではなく、「万が一のときに、大切な人へ確実にお金を遺したい」という目的であれば、生命保険の受取人指定という手段もある。受取人固有の財産として渡るため、遺産分割の対象にならないという特徴がある(指定できる範囲は保険会社によって異なる)。

どの保険で遺すのが自分に合っているかは、収入保障・定期・終身保険の違いで整理している。「誰に、いくら、どうやって渡すか」を決めるところから始めたい。

まとめ

  • 未成年を養子にするには家庭裁判所の許可が必要で、申立てから3〜6か月かかる
  • 15歳未満なら法定代理人の承諾も要る。子ども本人の願いだけでは、制度は動かない
  • 生死不明が7年続けば失踪宣告ができる(危難によるものなら1年
  • 失踪宣告が取り消されても、善意でされた行為は覆らず、財産は現に利益を受けている限度でしか戻らない
  • どれだけ一緒に過ごしても、届出がなければ法的な親子関係は存在しない

「願いをひとつ言ってください」と言えるうちに、そして聞けるうちに、できることをしておきたい。

Q. 子どもが「養子になりたい」と言えば、養子縁組できますか?

できません。15歳未満の場合は法定代理人(実の親など)の承諾が必要で、さらに未成年者を養子とするには家庭裁判所の許可が要ります。子ども本人の意思だけでは手続きは進みません。なお15歳以上であれば、養子となる本人が自分で縁組の承諾をすることができます。

Q. 長く一緒に暮らしていれば、法的な親子と認められますか?

認められません。養子縁組の届出がなければ、どれだけ長く生活をともにしていても法律上の親子関係は生じず、相続権も扶養義務も発生しません。財産を遺したい場合は、養子縁組・遺言・生命保険の受取人指定などの手段を検討することになります。

Q. 行方不明の家族の預金や保険は、すぐに手続きできますか?

できません。死亡が確認できないと死亡届が出せず、相続も保険金の請求も進みません。生死不明が7年続けば失踪宣告を申し立てられ、宣告が出れば死亡とみなされます。震災や船の沈没など死亡の原因となる危難に遭遇した場合は、危難が去った後1年で申し立てられます。

Q. 失踪宣告のあとに本人が戻ってきたら、財産は全部返ってきますか?

全部は戻らないことがあります。家庭裁判所は失踪宣告を取り消しますが、取消し前に善意でされた行為の効力は影響を受けません。また財産を得た人が返す義務を負うのは、現に利益を受けている限度に限られます。

※本記事は制度の一般的な解説です。かながわFP相談所は、養子縁組・失踪宣告の申立てなど裁判所への手続きの代理・書類作成は行いません。これらは弁護士・司法書士の業務範囲となるため、具体的な手続きについては専門家にご相談ください。作品に関する記述は、作中で描かれている事柄の範囲にとどめ、公式に説明されていない経緯や結末の解釈には踏み込んでいません。

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かながわFP相談所

この記事を書いた人

かながわFP相談所

AFP2級FP技能士宅地建物取引士二種証券外務員

奈良県橿原市の独立系FP。外資系生保・乗合代理店・不動産会社での実務を経て独立。特定の保険会社・金融機関に属さない中立的な立場から、保険見直し・NISA・住宅ローン・ライフプランニングなど家計全般のご相談に対応。IFAとして資産運用アドバイスも行っています。

奈良・橿原でFPとして活動を始めて8年。2025年に二度の手術を経験し、病室で痛感したことがあります。人は心身が揺らいだ瞬間、どれほど知識があっても正しい判断ができなくなるという現実です。数字の正解より、迷った瞬間に隣で一緒に地図を広げる存在でありたい。

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