がんになっても仕事は続けられる?治療と仕事を両立する方法と使える制度をFPが解説

がんと診断されて、すぐ退職を考えていないか
「仕事、続けられるんだろうか」
がんの告知を受けた瞬間、多くの人がそう思う。
国立がん研究センターのデータでは、がん診断後に休職・退職を経験する人は7割超。だが、そのうちの一定数は「退職しなくても治療できた」と後から気づいている。
退職は取り消せない。傷病手当金は退職後に受給資格を失うケースがある。雇用保険の受給期間延長も、在職中でないと申請しにくい。
つまり、「診断直後の退職」は経済的に最も不利な選択肢になりやすい。
この記事では、がん治療と仕事を両立するための実務——主治医への確認事項、職場への伝え方、使える制度——をFPの視点でまとめた。
まず主治医に確認すること
「どれくらい休めばいいか」は主治医にしかわからない。職場に伝える前に、以下を確認しておく。
- 治療の期間(いつまでかかるか)
- 入院が必要か、外来通院で済むか
- 治療のスケジュール(投薬タイミング・通院頻度)
- 副作用でどんな体の変化が起きるか
- 今の仕事内容で続けられるか、避けるべき業務はあるか
これを把握してから職場と話すと、「どれくらい配慮が必要か」を具体的に伝えられる。漠然と「休みます」より、職場も動きやすくなる。
国立がん研究センターのガイドでも、「治療スケジュールを確認してから、職場で配慮してもらいたいことを整理する」という順序が推奨されている。
職場への伝え方
タイミングは「早め」が有利
乳がんステージⅢaと診断された50代の経営者は、診断翌日に朝礼で社員全員に公表した。「早期発見でないため、長期間仕事をセーブする必要があった」からだ。
結果として、その公表がきっかけで社員の一人が乳がんを早期発見した。早めに伝えることは、職場全体にとってもプラスになることがある。
一方、気持ちの整理がつくまでは「病名や詳細ではなく、現時点でわかっていることだけ伝える」選択肢もある。まず上司だけに話し、チームへの開示は後から、という進め方でも問題ない。
何を伝えるか
職場に伝える内容の基本は3点だ。
- 治療期間のめやす
- 通院スケジュール(週何回、何曜日など)
- 配慮してほしいこと(重い荷物を持てない、通勤ラッシュがつらいなど)
「書類で共有できる形にしておけばよかった」——食道がんの治療後に復職し、その後退職を選んだ60代男性の言葉だ。体調や業務上の制限を口頭だけで伝えていたため、時間が経つにつれて「以前のように効率を求められるようになった」という。
伝えるなら、主治医に「診断書」を依頼し、書面で職場と共有するのが確実だ。
「言わなくていいこと」もある
病名・ステージ・治療内容を全部話す義務はない。伝えなくても、休暇や配慮を受ける権利は保障されている。何をどこまで伝えるかは、本人が決めていい。
使える職場の制度
会社によって異なるが、以下の制度が利用できるケースがある。就業規則(従業員10人以上の会社は作成・周知が義務)を確認するか、人事・総務担当者に聞いてみよう。
| 制度 | こんなときに使う |
|---|---|
| 時短勤務 | 体力が落ちていて、フルタイムがきついとき |
| 時差出勤 | 満員電車がつらいとき、通勤ラッシュを避けたいとき |
| テレワーク | 免疫力低下中、手術後の傷口の痛みがあるとき |
| 時間単位の有給休暇・フレックス | 放射線治療のために毎日短時間通院するとき |
| リハビリ出勤(試し出勤) | 休職から復職するとき、段階的に職場復帰したいとき |
乳がんで放射線治療を受けた50代女性は、「週5回×5週間の通院」を、会社の休憩時間帯を調整してもらうことで、休職せずに完遂した。仕事をしている時間は「病気のことを考えずに済んだ」とも話している。
治療中も働き続けることは、収入を守るだけでなく、精神的な支えになることもある。
「両立支援プラン」という制度を知っているか
厚生労働省のガイドラインに基づく制度で、知名度はまだ低い。
流れはこうだ。
- 「勤務情報提供書」を会社が作成し、主治医に渡す
- 主治医が「主治医意見書」を作成
- 本人が会社に「主治医意見書」を提出
- 会社が産業医と連携して「両立支援プラン」を作成
書類のフォーマットは厚生労働省「治療と仕事の両立支援ナビ」で無料公開されている。会社にこの制度を知らせるだけで、話し合いがスムーズになるケースもある。
退職を迫られたら
「がんだから辞めてほしい」と言われることがある。だが、退職は当事者の同意なしには成立しない。
誤った医学的認識から会社が強く退職を勧めてくる場合は、都道府県の労働局に設置されている「総合労働相談コーナー」に相談できる。
奈良県内であれば、奈良労働局総合労働相談コーナー(0742-32-0202)が窓口だ。
お金の制度|早見表
仕事を休む・辞めるときに使える主な制度をまとめた。
| 制度 | 対象 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 傷病手当金 | 会社員・公務員(健保・共済加入者) | 日額の2/3を通算1年6ヶ月支給 | 国民健康保険は対象外 |
| 失業手当の受給期間延長 | 雇用保険加入者 | 受給期間を最長4年まで延長可能 | ハローワークへの申請が必要 |
| 障害年金 | 公的年金加入者 | 障害等級に応じて年金支給 | 「該当しないと思っていたが受給できた」ケースあり。社労士への相談推奨 |
| 生活福祉資金貸付 | 低所得・障害者世帯等 | 社会福祉協議会が生活資金を貸付 | 各市区町村の社会福祉協議会が窓口 |
詳しくは以下の記事も参照してほしい。
奈良県の相談窓口
治療と仕事の両立に悩んだとき、一人で抱え込まなくていい。奈良県内で使える相談先をまとめた。
| 相談先 | 内容 | 連絡先 |
|---|---|---|
| 奈良県立医科大学附属病院 がん相談支援センター | 就労相談・社労士相談日あり | 0744-22-3051(内線1173) 月〜金 9:00〜17:00 |
| 奈良産業保健総合支援センター | 両立支援促進員が相談対応・勤務先との調整も | 要予約 |
| ハローワーク大和高田 | 長期療養者職業相談窓口・奈良県立医科大附属病院への出張相談(毎週火曜13〜16時) | 0745-52-5801(部門コード43#) |
FPからひとこと
相談の現場でよく見るのは、「もっと早く来てくれれば」という場面だ。
退職してから傷病手当金が受け取れないと気づく。障害年金の申請期限を過ぎている。雇用保険の延長申請を忘れていた。
制度は「知っていて使う人」にしか機能しない。
がんの診断後、気持ちが落ち着かないうちに退職という大きな決断をするのは避けた方がいい。まずは主治医に聞き、職場に相談し、制度を確認する。その順番を守るだけで、選択肢が大きく変わる。
お金の不安があれば、FPへの相談も選択肢のひとつだ。

この記事を書いた人
かながわFP相談所
AFP2級FP技能士宅地建物取引士二種証券外務員
奈良県橿原市の独立系FP。外資系生保・乗合代理店・不動産会社での実務を経て独立。特定の保険会社・金融機関に属さない中立的な立場から、保険見直し・NISA・住宅ローン・ライフプランニングなど家計全般のご相談に対応。IFAとして資産運用アドバイスも行っています。
奈良・橿原でFPとして活動を始めて8年。2025年に二度の手術を経験し、病室で痛感したことがあります。人は心身が揺らいだ瞬間、どれほど知識があっても正しい判断ができなくなるという現実です。数字の正解より、迷った瞬間に隣で一緒に地図を広げる存在でありたい。
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