がんになったら使えるお金の制度一覧|診断直後から復職まで時系列で解説

制度を知らないまま、損している人が多い
がんと診断された瞬間、頭の中はパニックになる。
治療のこと、仕事のこと、家族のこと。そして「お金、大丈夫か」。
ただ、現実として使える制度を知らないまま退職し、傷病手当金を受け取れなかった人が後を絶たない。障害年金ももらえると知らずにいた人が、社労士に相談して初めて受給できたというケースも少なくない。
制度は「知っている人」にしか機能しない。
この記事では、がんと診断されてから復職・転職まで、時系列で使える制度を整理した。「今の自分はどのフェーズか」を確認しながら読んでほしい。
フェーズ①|診断直後にやること
高額療養費制度
がん治療は医療費が高額になる。手術・入院・抗がん剤と重なれば、1ヶ月の自己負担が数十万円になるケースもある。
高額療養費制度は、1ヶ月の医療費自己負担に上限を設ける制度だ。年収約370〜770万円(一般所得)の場合、上限はおよそ8〜9万円前後になる。それを超えた分は後から払い戻される。
なお、2026年8月から高額療養費制度の見直しが予定されている。年間上限の新設など、長期治療に影響が出る可能性があるため、最新情報を確認してほしい。詳しくは「高額療養費制度が2026年8月から変わる」で解説している。
限度額適用認定証
高額療養費は本来「後払い」の制度だが、「限度額適用認定証」を事前に取得すれば、窓口での支払い自体を上限額に抑えられる。入院が決まったらすぐに申請するのが鉄則だ。
申請先は加入している健康保険(協会けんぽ・健保組合・共済など)。マイナ保険証が使える医療機関では手続き不要になるケースもあるが、念のため紙の認定証も用意しておくと安心だ。
がん保険・医療保険の請求
診断確定後、加入している民間保険の給付金請求を忘れずに。
- がん診断給付金(診断確定時に一時金)
- 入院給付金(入院1日あたり)
- 手術給付金
- 先進医療給付金
請求期限は保険会社によって異なるが、「請求しなければもらえない」のが原則だ。入院中は気力が落ちるため、家族に手続きを任せるのも一つの方法だ。
フェーズ②|治療・休職中に使える制度
傷病手当金
会社員・公務員が病気で働けなくなったときの収入保障制度。給与日額の3分の2を、通算1年6ヶ月受け取れる。
対象は健康保険・共済・船員保険の加入者。国民健康保険(フリーランス・自営業)は対象外だ。
退職後も一定条件を満たせば継続受給できるケースがある。退職前に必ず確認してほしい。
詳しくは「がん治療中の傷病手当金|仕組みと2つの限界」を参照。
就業不能保険
民間保険の中で、長期の就業不能状態に対して月々の給付金が出る保険だ。傷病手当金の1年6ヶ月を超えた後の収入不安に備えるものとして設計されている。
既に加入している場合は給付条件を確認。未加入の場合、がん診断後は加入不可になるため、告知事項に注意だ。詳しくは「就業不能保険とは?必要な人・不要な人をFPが解説」で解説している。
治療と仕事の両立支援
厚生労働省の「両立支援プラン」制度を活用すれば、主治医・職場・産業医が連携して、治療しながら働ける環境を整えやすくなる。
時短勤務・フレックス・テレワーク・試し出勤など、職場の制度と組み合わせると選択肢が広がる。詳しくは「がんになっても仕事は続けられる?治療と仕事を両立する方法と使える制度をFPが解説」を参照。
フェーズ③|長期療養になったら
障害年金
「がんで障害年金はもらえない」と思い込んでいる人が多い。実際には、人工肛門・人工膀胱の造設、全身衰弱が続く場合なども対象になりうる。
傷病手当金が終わる1年6ヶ月前後のタイミングで確認したい制度だ。社労士に相談すると「該当しないと思っていたが受給できた」というケースも少なくない。
詳しくは「がんでも障害年金はもらえる?受給条件・金額・申請方法をFPが解説」で解説している。
生活福祉資金貸付制度
低所得世帯・障害者世帯などを対象に、都道府県の社会福祉協議会が生活費を貸し付ける制度だ。給付ではなく貸付だが、金利が低く返済猶予もある。各市区町村の社会福祉協議会が窓口だ。
身体障害者手帳・医療費負担軽減
人工肛門・人工膀胱の造設や咽頭全摘術を受けた場合、身体障害者手帳の対象になる。取得すると、ストーマ装具の補助、公共料金・交通費の割引、税金の減額免除などが受けられる。
障害年金の等級とは別制度のため、手続きも別途必要だ。市区町村の障害福祉課が窓口だ。
フェーズ④|退職・転職時に確認すること
失業手当の受給期間延長
退職後に求職活動ができない状態が30日以上続く場合、ハローワークに申請することで失業手当の受給期間を最長4年まで延長できる。
「治療が落ち着いたら働きたい」という人は、退職時にこの申請を忘れずに。期限を過ぎると延長できなくなる。
健康保険の切り替え
退職した翌日から、これまでの健康保険は適用されなくなる。以下の3択から選ぶ。
- 任意継続:退職前の保険をそのまま最大2年間継続。保険料は会社負担分も自己負担になるため割高になるケースが多い
- 国民健康保険:前年所得をもとに保険料が決まる。退職後に収入が激減する場合は減額申請が可能だ。
- 家族の扶養に入る:配偶者などの被扶養者になる。保険料負担ゼロになるため、条件を満たせば最も有利だ。
傷病手当金を受給中の場合、退職後の受給継続条件(1年以上の加入など)を必ず確認すること。
がん治療中に気になるお金の問題
制度の確認と並行して、多くの人が気になるのが以下の2点だ。
- がんと住宅ローン|団信・支払い・競売リスクをFPが解説——「ローンを払い続けられるか」は相談で必ず出る問題だ
- がんとNISA|治療中に売るべきか・放置でいいかをFPが解説——「新NISAどうしたらいい?」という相談が急増している
- がんと診断されたら遺族年金を確認してほしい理由|残された家族のお金をFPが解説
フェーズ⑤|年末にやること(税金)
医療費控除
1年間(1月〜12月)に支払った医療費が10万円(所得200万円未満は所得の5%)を超えた場合、確定申告で医療費控除を申請できる。
対象になるのは治療費だけではない。通院交通費・市販薬・入院中の食事代なども含まれる。領収書は捨てずに保管しておく。
注意点:入院給付金・手術給付金などで補填された金額は医療費から差し引く必要がある。ただしがん診断一時金は差し引き不要(使途自由のため)だ。
医療費控除は年末調整では適用されない。会社員でも確定申告が必要だ。過去5年以内であれば還付申告も可能だ。
がん保険の給付金と税金
入院給付金・手術給付金・がん診断給付金など、身体の傷害・疾病に対して支払われる給付金は原則非課税だ。確定申告で所得として申告する必要はない。
ただし、解約返戻金や健康還付金は課税対象になるケースがある。契約内容を確認する。
対象者別|使える制度の早見表
| 制度 | 会社員・公務員 | フリーランス・自営業 | 専業主婦(夫) |
|---|---|---|---|
| 高額療養費制度 | ✅ | ✅ | ✅ |
| 傷病手当金 | ✅ | ❌ | ❌ |
| 障害年金 | ✅(厚生年金) | ✅(国民年金) | ✅(国民年金) |
| 失業手当の延長 | ✅(雇用保険加入者) | ❌ | ❌ |
| 医療費控除 | ✅ | ✅ | ✅(世帯合算) |
| 生活福祉資金貸付 | ✅(低所得要件あり) | ✅(低所得要件あり) | ✅(低所得要件あり) |
FPからひとこと
相談の現場でよく聞くのは「もっと早く知りたかった」という言葉だ。
高額療養費は知っていても、傷病手当金は知らなかった。傷病手当金は知っていても、障害年金はまさか自分が対象とは思っていなかった。医療費控除をやっていなかった——こういう人が実際に多い。
制度の全体像を把握するのは難しい。特にがん治療中は体力・気力ともに落ちているため、「調べる余裕がない」という状況になりやすい。
そんなときこそ、FPへの相談が役に立つ。今の状況でどの制度が使えるか、家計にどう影響するかを一緒に整理することが、FPの仕事だ。

この記事を書いた人
かながわFP相談所
AFP2級FP技能士宅地建物取引士二種証券外務員
奈良県橿原市の独立系FP。外資系生保・乗合代理店・不動産会社での実務を経て独立。特定の保険会社・金融機関に属さない中立的な立場から、保険見直し・NISA・住宅ローン・ライフプランニングなど家計全般のご相談に対応。IFAとして資産運用アドバイスも行っています。
奈良・橿原でFPとして活動を始めて8年。2025年に二度の手術を経験し、病室で痛感したことがあります。人は心身が揺らいだ瞬間、どれほど知識があっても正しい判断ができなくなるという現実です。数字の正解より、迷った瞬間に隣で一緒に地図を広げる存在でありたい。
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